ぎんたま

□ロリコンと猪女
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武市がアジトで仕事をしていると、また子が駆けてきた。
「たーけちへんたい!」
「変態じゃありません。なんですか猪女」
「猪女じゃないっス! このロリコン」
「ロリコンじゃありませんフェミニストです。いつまで続けるんですかこの会話。何か用事ですかまた子さん」
「先輩が猪女とか言うからっスよ! ちょっと味見してほしいんスけど」
また子は武市にでかでかと『義理』と描かれたチョコレートを差し出した。
「……また子さん」
武市の表情は、いつも無表情だったが、この時ばかりは寂しそうだった。
「晋助さまにあげるんスけど、ちょっと味見してほしいっス」
また子はそんな表情を気にせず朗らかに言う。
「いや、味見ならしますけど、別にこんな風に描かなくてもいいんじゃないですか。てゆうか自分で味見したらいいと思いますが」
けっこうショックだったのか、武市はいつもより早口だった。それもまた子は気にしない、というより気づいていないようだ。
「だってちゃんと書かないと、先輩誤解しそうだし誤解とかマジキモイッス絶対ないっス。自分で食べないのは自信がないからっス。人の意見聞いて、安心したいんス」
セリフの後半あたりから、また子の声がしゅんとしたものになった。
いつも気をはって男のなかを駆け回るまた子では考えられない。こうしているとまた子も普通女の子のようだ。
「………」
武市はまた子からチョコを受けとって、ひとかけら口にほうりこんだ。
「いいんじゃないですか。あなたらしい頑張っている味だと思いますよ私は」
途端また子は顔を輝かせた。その瞬間、不覚にも武市はその顔に目を奪われてしまった。
「ほんとっスか! 変態!!!」
「変態じゃありません先輩です猪女」
武市はいつものやりとりで言葉を返したが、また子は聞いてないようにうきうきとまた駆けていった。
嵐が去ったようだ。武市はふうと息を吐いた。
「あと5年若かったらねえ」
先ほどの不覚を否定するように、つぶやく。
ロリコンと取られても言い訳ができない危ない発言だった。




end


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