ぎんたま

□卒業
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もうすぐ、高校を卒業する。
それは神楽にはあまりに漠然としていて、なんだかよくわからない。
卒業して、あの騒がしかった毎日が、その日から全てなくなってしまうというのは、どういうことなのだろう。
何かを思う以前に、理解ができなかった。
「リーダー」
卒業が近くなるにつれて、神楽は屋上でぼーっとしていることが多くなった。
放課後、桂はその神楽を探して、屋上までやってきた。
「ヅラ」
「ヅラじゃない桂だ。こんなところにいたのかリーダー。一緒に帰らんか」
「うん。でももう少しここにいたいアル」
「わかった。では俺も」
そう言って桂は神楽の隣に立った。
同じようにぼうっとグラウンドを眺める。
「寒いアルな」
「そうだな」
だからといって帰ろうと桂は言わなかった。
じっと待っている。
暫くして、また神楽が口を開いた。
「ヅラ、お前は卒業したらどうするアルか」
俺か、俺は地域の平和を守る何かになりたいのでな。そのためには金が必要だから、エリザベスとともに暫くあちこちで働こうかと思っている」
「ただのフリーターアルな」
「そうとも言う。ではリーダーはどうするのだ」
「私は神威といったん故郷に帰るネ。神威はまたダブった阿伏兎をからかいにこっちくるらしいけど」
「そうか、寂しくなるな。帰ってしまうのかリーダー」
残念そうに桂が言うと、神楽はきょとんとした。
「さみしい?」
「ああ、俺はリーダーにもう会えんと思うと寂しいぞ」
さみしい。
そんな事今まで考えたことなかった。
そうか、なぜ卒業するということが良くわからなかったのか、いまわかった。
高校を卒業して、故郷に帰って、クラスのみんなに会えなくなる。それを寂しいと認めた時もう二度と会えなくなってしまうような気がしたのだ。
だから漠然と何も考えないようにしていた。
みんなと別れたくない。
桂とも別れたくない。
「だが、リーダー、今生の別れではない。別れるということは、いつかまた再開出来るということだ」
桂は励ますように、神楽の背中を叩いた。
神楽はうなずく。そう今生の別れではないのだ。
神楽は鞄から小さな箱を取り出した。
「ヅラ。私これをお前に渡しに、皆に会いに、毎年戻ってくるアル。だから寂しくないネ」
箱の中身は、今日のために作ったチョコである。








end





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