ぎんたま

□卒業とその後
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※3Z卒業数年後
※妄想かぶき町にて

夜になると、街にネオンが灯り始める。
昼の眠りから、夜の目覚めへと街は変貌していく。
道を行く人たちは、ネオンに顔を染め、そんな人々を街は絡め取り逃さない。
そんな混沌とした変化を遂げる街が、桂は結構好きだった。
客引きのバイトをしながら、桂はぼんやりと思う。
故国にこんな街はない。ここはいろいろあって楽しい街だ、だからここが好きだと彼女は言っていた。
いまどうしているのだろうか。
「あ、ヅラだ」
夜も更けたころ、行き交う人の中から、聞き慣れた声がした。
「先生」
見ると、担任だった銀八が歩いてくるところだった。いつものメガネと白衣とサンダル姿である。教師がこんなところきていいのか。桂は眉根を寄せる。
「よおヅラ。お前今度はここで働いてんのか」
桂を上から下まで眺め回して、銀八はげらげらわらう。この様子だともう飲んでるなと桂はいらいらした。面倒くさいのにつかまった。
「ヅラじゃない桂です。先生なんでこの格好でこんなところに来ているんですか」
「ああん? 両さんだって制服でパチンコも競馬も行くんだからいいだろ。主人公には服がねえんだよ」
注意してやると、開き直ったように言い返された。
その態度は、昔となんら変わらない。何だか懐かしかった。そういえばもう高校を卒業してから3年もたつのか。
「進路指導のとき、地域の平和を守る何かになるとか言われて、どうしようかと思ったけど。まあうまいこと生きてるからよかったよ」
満足そうに銀八は笑む。このへんだけ高校教師である。
「バイトをすることによって、地域の内情が見えてきますし、金も稼げます。平和を守る何か、になるための準備は常に進行中ですよ」
「ふーん」
銀八はあまり興味がなさそうに頷き、話題を探すように視線をそらした。
特に話すことがないなら、もう行ってくれないだろうかと桂は思う。再会は嬉しいが、今はバイト中だ。
「ところでさあ、お前神楽とはどうなってんの」
「リーダーですか? ああ今年もバレンタインにもらったので、お返しするつもりです」
3年Z組に留学生としてやってきた神楽は、卒業して故国に帰った。バレンタインにこちらに来ると約束したので(バレンタイン風景参照)、毎年このように送りあっているのだ。
特にどうなってんのと言われるほどの何かは起こっていないが、なぜこんなことを聞くのだろうかと桂は不思議に思った。
「え? 何。送りあうだけかよ」
「そうですが」
「え? 友チョコ?」
「そのように略すのは好きではありませんが、まあそうなんじゃないですか」
「えー。少なくとも神楽はそうは思ってないように見えたけど」
「………」
桂は黙った。
それにはなんとなく気づいている。しかし今は答えられない。
桂が黙ったのを見て、銀八はにやにやする。やっぱりこいつはいぢりがいがあって楽しい。
「お前らもどかしいわなんか」
「……先生に言われる筋合いはありません」
「………」
今度は銀八が黙る番だった。






end



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