ぎんたま

□銀さんモテモテ!
1ページ/1ページ




「うーす」
昼、スナックお登勢を訪れたのは、銀時だった。
「なんだい。まだ営業時間じゃないよ」
カウンターの中でタバコを吹かしていたお登勢が言う。
「いいじゃねぇかババア。家賃も払ったし、久々に金入ったから食う分は払うぜ」
「フン、まぁいいよ。で、何食うんだい」
「パフェくれ」
「あいよ、まったくパフェはメニューにないんだけどねえ。あたしゃアンタの為にクリーム買ったりしてるよ」
作りながらお登勢はぶつぶつつぶやく。
それでも、手は動いていた。
「出しゃいいんじゃね。うまいと思うけど。……お、どうしたよたま」
気がつくと、傍にたまがやって来ていた。何かもっている。
『銀時様、あけましてバレンタインおめでとうございます』
たまは銀時にもっていたものを突き出した。青色の紙で包装された四角い箱である。
「そりゃちげえよたま。でこれはなんだ」
照れ隠しにぼそっと文句を言って、銀時はそれを受け取る。
たまは生真面目に真実を答えた。
『オイル入りチョコレートです』
「いるかァァァ!!」
どぱん! と青色の箱は床に叩きつけられた。中からどろっとチョコともオイルともつかないものが染みだした。
たまはそれを拾いあげる。からくりなので、表情はまったく変わらないままである。わかっていても無表情ってこわいと銀時は思った。
『どうして、そのようなことをなさるのですか。私のデータに該当しません。バレンタインとは男が女から貰うチョコの数で一喜一憂する日ではないのですか。質より量ではありませんか」
「質より量ってお前何処の世界にオイル入りチョコで喜ぶ馬鹿がいるよ」
「ジャア、ワタシノちょこナラダイジョウブデスネー」
話を聞いていたキャサリンが、銀時にキャラメルをひとつ渡した。
見もせずに投げ捨てられる。
「アッ、ナンテコトスルンダ。カネハラエコノヤロー」
「こっちが払って欲しいくらいだ」
「ンダトコルァ」
銀時とキャサリンは超至近距離で睨みあう。
いますぐ殴りあいのケンカになりそうだ。
そこへお登勢の声がわって入った。
「まあまあその辺にしときな。ホラ銀時出来たよ。今日はサービスでタダにしといたげる」
「まじでかババア!」
くるっと態度を豹変させて、銀時はお登勢の方に向き直った。
そして、パフェを見て固まる。
「ババアこれ」
お登勢が差し出したのはチョコパフェだった。
もしかしてこれは。
銀時は恐ろしい考えでいっぱいになった。
「あぁ、今日バレンタインだろう。アンタだったら知り合い多いから、今日はこれ以外にももらってるんじゃないかい」
「………」
銀時はスプーンを持ったまま固まっている。こめかみがひくひくと痙攣した。
今のセリフは銀時の心の傷をえぐった。えぐるだけでばあきたらず、塩を擦りつけた。
「お、おう。すすす、すんげーもらってるぜ。もう困ってしゃーねえよ。あはははは」
もちろんこれは嘘である。本日銀時が貰うことが出来たのは、今ここでもらったものがすべてである。
しかし、男の見栄が正直になることを許さなかったのだった。
あまりに痛々しい笑い声に、お登勢は申し訳なさそうにタバコを吹かし、キャサリンは肩をすくめた。
しかしたまにはわからなかったようで、
『銀時様、サーチの結果心拍数、体温共に急激に上昇しています。嘘をつかれているのではないですか』
「嘘なんかついてねぇよ。しばくぞポンコツ」
銀時に高速で叩かれた。






end




[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ