ぎんたま

□月夜のひねくれもの
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※四天王編の直後くらい




今日はおごりだよと、目の前に酒と甘味が出された。
「あたしゃ甘いモンで酒なんて飲めないけどね。それでいいんだろう」
見るとババアはいつもの表情だった。重症だったとは思えないほど、いつもの一本の筋が通ったような、すっきりした表情だ。
なんだか心の奥がぽかぽかする。なんだろう。ぬるま湯に浸かっているみたいだ。気持ちよくて、いつまでもそこにいたい。
「………」
甘味を口に運ぶ。当たり前だが甘い。舌がびりびりしびれて、とろけてしまいそうだ。
俺は大きく息を吐いて、カウンターに伏せた。
「なんだい疲れたのかィ」
「うるせーほっとけ」
ゆるんでしまった顔を見られたくなかった。しばらくそうしてから、首をめぐらし、こっそりババアを盗み見る。
紫煙をくゆらせ、ぼんやりとどこかを見ている。一瞬の隙。いつもの気の張った姿とちがう。儚い。消えてしまいそうだ。あんなことがあったから余計に。
「……ババア」
「なんだい」
こちらは見ない。見て欲しかった。振り向いて欲しかった。
「……結婚してくんない」
間があった。ババアがこっちを見る。眉を胡散臭げにしかめ、
「何言ってんだい青二才」
あっさり斬り捨ててくれた。







end
銀登勢は聖域





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