Sweet Dream

□友達認定試験
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それは偶然の出会いだった。

僕はこのスラム街で、お人形さんみたいな可愛らしい女の子を見つけた。
透き通る水色の髪をした、大きな黒い瞳の。
彼女は黒いワンピースを着た天使だった。
いきなりだが、僕はこの町の派手なストリートガールやセクシーな女性が大嫌いだ。
彼女たちを見ていると、子供の頃の無垢な心を捨ててしまったかのような汚れを感じるからだ。

いわゆる僕は、ロリータコンプレックスと呼ばれる種類の男なんだろう。



出会いは、スラムの空き地だった。
彼女はスコップを片手に、何も無い空き地に小さな山をいくつも作っていた。
その様子があまりにも可愛らしく、妖精ではないかと疑いながら声をかけてみる。
「君、そこで何をしてるの?」
彼女は急に声をかけられた事に驚くことなく返事をしてくれた。
「お墓を作ってるの。」
「へぇ〜…優しいんだね!」
しゃがんだまま見上げてくる笑顔のなんて可愛らしいことか。
見れば蝶や他の虫の死骸を埋めてあげているという、微笑ましくも平和な光景がそこに広がっていた。
あちこちの山は全部お墓だったのか。
とうの昔に絶滅したと思われる無垢さだ。
連れて帰りたいという危険な誘惑と戦っていると…。
「例え魂がここに無くても、亡くなってる姿を見つけたら、ちゃんと供養してあげないといけないって教わったの。生きている間に頑張った身体だから。」
「素晴らしいよ!」
とても良い家庭で育てられてるんだろうな。
そう感心していると、彼女は続けた。
「うん、前にバージルがね、人間も虫けらも同じだって言ってたの。人も虫も関係ないって。確かに魂になれば一緒だから。」
「……………。」
そのバージルって奴はどんな奴なんだ…?
この子が上手く解釈してくれたから良いものの、人間を虫けら同然に扱うような奴が傍にいて、大丈夫なのか?
「君、名前は何て言うの?」
「…………。」
じっとこちらを観察してくる彼女に、警戒されないよう、僕は先に名乗ることにした。
「僕はフィリップっていうんだけど…。」
「………サリタ。」
サリタっていうのか〜!
でも仕方なくといった感じに教えてくれた名前だ。
「……バージルが、名前は…気を許した相手にだけ教えてやればいいって言ってたから。」
何だそのガードの硬さは。
気に入った奴にしか名乗らないなんて、どれだけ上から目線だ。
とんでもない教育者だ。
「…そのバージルって人は、君の何?お兄さん?」
「………っ。」
初対面でいきなりバージルについて聞かれ、サリタは口を噤む。
これは不味いと思って、僕は思い切って言った。
「あのさ、僕と友達になってくれない?」
するとサリタは今日は無理だと言った。
「明日でもいい?」
「えぇ…っ?」
今度は何だ?
「友達作る時は先にダンテに紹介する約束なの。」
女の子なら構わないけど男は駄目なんて変だよね、などと言われ、姿も見えない者からの並々ならぬ警戒網を感じた。
「……………。」
サリタと友達になるには、ダンテとかいう男から『友達認定試験』を受けなきゃならないのか。
何というガードの硬さだ!
「あっ、そろそろ帰らなきゃ。」
あまり長く出歩くと心配かけてしまうと言って、サリタは今掘った1つの穴に墓を待っていた虫たちをザーッとまとめて収めて立ち上がる。
「……っ…っ!」
その大胆さに、先ほどの一体ずつの墓は何だったのかと思わずにはいられない。
悪魔のような非道さだ。
「私、帰るね!」
その不思議な少女・サリタは、一度もこちらを振り返ることなく去って行く。
その後ろ姿がどうしても気になってしまい、僕は悪いと思いながらも彼女を尾行してしまった。
こうしてこの日から、僕のストーカーの日々が始まる…。




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