Sweet Dream U

□妖精からの贈り物
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バージルの機嫌を取るため、アーカムは例の本棚を調べ、彼の気に入りそうな本を発見した。
『24時間好感生活』という、奇妙なタイトルの本だ。
誤字かと思ったが、そうでは無いらしい。
開いてみると、そこには24時間かけて互いの好感度を上げる事で、より互いを理解し合えるという健全な内容があった。
不仲な上司と部下にも有効と書かれたそれに強く惹かれるが、既にそんなことで分かり合えるはずが無いと諦めている。
魔法すら通じないに決まっているからだ。
さて、これをどうするか…。
しばし思案した後、アーカムはそれをサリタを迎えにくるバージルの目に届きそうなところへ置いた。
彼は疑り深く、とにかくプライドが高い。
こんなものを直接提案したり手渡しでもすれば、厳しい言葉で拒絶し罵られるに違いない。
最悪その場で斬り捨てられてしまうだろう。
こうして置いておけば確実にくすねて行く男だが、見ない振り、知らんぷりだ。
だんだん私もそれらしくなってきたじゃないか…。
アーカムは自らの成長振りに笑みを浮かべる。

ところが予想外な事が起きてしまった。



「サリタ、迎えに来たぞ。」
その日、迎えに現れたのはダンテだったのだ。
ダンテは遊びに行った先がレディの事務所ならわざわざ迎えに行く必要など無いと思っているが、過保護な男に頼まれてやって来た。
「バッ、バージルは来ないのかね……?」
今更入り口の目立つ場所に置かれたその本を引っ込めるわけにもいかず、アーカムはたじたじである。
何とも不運な男だ。
確実に目に止まる場所へ置かれたそれを、バージルではなくダンテに渡ったとなれば、せっかくのご機嫌取りも威力の効果だけマイナスになってしまうからだ。
「バージルは面白い依頼を掻っ攫って行きやがった。俺が行く番なのにな。」
「…………。」
バージル、君もなかなか運が無いな…。
たった今もそうだが、日頃の行いが悪い所為かもしれない…。
「ダンテ、あとちょっとだけ待ってて。」
「何してんだ?」
覗き込めば、サリタは何かの問題集を熱心に解いていた。
その様子を見ているダンテとアーカムが息を呑み、無言で見守っている。
たった今更新された、アーカムの本日二番目の驚きがこれだった。
毎日のように遊びに来られると、遊ぶネタも尽きてくるというもの。
何か集中させるようなものは無いかと、学習ドリルを与えてみたのが事の始まりだった。
最初は何も解らなかったこの悪魔は、イラスト付の【解き方】と書かれた解説を読むと、すぐにそれらを理解した。
頭が悪いと思っていたこの悪魔は、とても高い知能を持っていたのだ。
今日は思い切ってIQテストを受けさせてみたのだが、外見年齢で算出したものだが、それは人間のレベルでは無かった。
普段からそう感じさせないのは、確実にその性格によるものだろう。
使えば良い頭を、使わずに素直さが前面に出ているため、簡単に騙されてしまうのだ。
それは"狡賢さ"を覚えない限り、永遠に変わらないだろう。
「……サリタは塾に通ってたってわけか?」
小学生のものからあっという間に大学レベルになった数式に、ダンテは頭が痛くなってきたと目を反らした。
「悪魔とはこういうものなのかもしれないが、彼女は人でいう"天才"だよ。」
学会で発表できる新しい数式も発見しそうだというそれに、興味深そうにダンテも見つめている。
教えれば何でも覚える……か。
数学は覚えなくても良いから、家事でも何でも教えたら、あっという間に良い嫁になれるのでは無いかと思ったからだ。
バージルに家事をやらせるのに、初めて反対する気が起きてきた。
だってつまり、教えればアレを越えるかもしれないってことだろ?
力では無理だが、バージルを超えられるかもしれないぞ、サリタ!
「何かね……?」
何やら隣でニヤニヤと笑っているダンテに気付き、アーカムは訝しむ。
「いや、いい事聞いたな。」
友達として認めてやるよ、とその場で正式な許可を出したダンテは上機嫌だ。
ガッツポーズを取って喜んでいるアーカム。
不安定だった立場が確実なものになったからだ。
ダンテのお墨付きを得たからには、バージルはアーカムを殺せない。
嫌でも一目置かざるを得ないのだ。


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