Sweet Dream V

□バージルの知られざる秘密 〜Dさんの証言より〜
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「へぇ、心得てるな。」
Dさんは差し出された特盛のストロベリーサンデーにご満悦だ。
対面しながらペンを走らせるアーカム。(以下A氏と略す。)

それは一見、何てことない光景だった。


「バージルは、香水の匂いをプンプンさせた派手な女が大嫌いなんだ。
いや、"人間の女"って見下してすらいたかもな。ヤルことはヤッてたみたいだけど。」
「ふむ…少々訂正が必要だな。(人間の女の部分)」
「ハハッ、そうだな。」
A氏も"ふふ"と笑い、和やかに談話しているがペンを走らせるスピードは変わらない。もうプロの域だから。
ヤルことはヤッてた…の部分に勢いよく波線を走らせる。
禁欲的に見せて実は…と妄想を混ぜ込むことも忘れない。
Dさんはチラッとそれを見てしまうが、無言でサンデーを咀嚼することにした。
あながち嘘ではないからだ。
「では…バージルはどんなタイプが好みなのかね?」
「好み?はっきりしたことは俺もわからねぇな。ただ…。」
Dさんは生クリームとストロベリーソースとアイスの層を混ぜて口へ運ぶ。
「…寄って来る女が嫌いなんだろうな。馴れた感じがすると嫌悪感剥き出しにする時があるから。
ラブ=プラネットの女みたいな誘い方したら細切れにされちまうぜ。」
「処女にこだわるタイプかね?」
「あぁ、好きそー。」
Dさんは"好きかも"と言っているのに、A氏は勝手に"処女好き"と書いて赤マルで囲んだ。
やりたい放題とはこーゆーことなのかもしれない。
Dさんはサンデーをつつきながら続ける。
「バージルは馬鹿な女は嫌いだとかよく言ってたな。でも最近はどうかなって思う。」
Dさんは最近増えた居候の悪魔のことを考えているらしい。
その悪魔がどう考えても利口な部類には入らないからだ。
「もちろん、あんたのことも馬鹿に位置づけてるみたいだぜ。」
ついでとばかりにA氏を挑発してみるDさんは色々な意味で悪ノリしている。
だがもっと悪ノリしてしまった人がいた。
「…こんなことを言うのも何だが、バージルも人のことを言えた義理では無いのでは?」
「何?」
「私に騙されてあの塔をウサギのようにピョンピョン……。」
「…………。」
言いかけてA氏は口を「ピョ」の形で固まった。
Dさんも心なしか青ざめ、無言でA氏を見ている。
A氏は俯いてガクガクだ。
「い、今のは…っ。」
「…OK、わかってる。それは禁句だろ。間違っても本人の前で言うなよ。」
Dさんは釘を刺しておく。
取りあえず2人は冷や汗を拭った。
話題の中心人物は沸点が低くプライドがとても高いのだ。
A氏もペンを置いてドリンクでクールダウンした。

「あぁ、何の話してたっけ?」
「バージルは処女が…。」
「そうそう、好きなのは間違い無いな。まぁ、好きな相手なら誰だってそうだろうけど。
あいつが清純派に弱いとは俺も最近知ったんだよな。バーンと胸がでっかくなくても良いんだよ。
何も知らなそうなとこがな…色々教え込む楽しみがあるだろ。」
Dさんは後半は自分の話になってしまっているが、A氏はそうは受け取らなかった。
「無垢な少女を自分好みに…っ。」
とんでもない想像がA氏の頭の中をいっぱいにした。
あのバージルが…!
そのお相手のイメージが一気に幼くなった。
A氏は文面の隅に"光源氏"とか"年の差"とか走り書きしていた。
興奮のあまり、はみ出して机に書いてしまっていることにも気づかない。
食いついてくるA氏に気を良くしたDさんは、波にノッている。
繰り返すが完全に悪ノリである。
「イヤイヤッてされると燃え上がるタイプじゃねぇ?泣くと興奮してたし。わざと泣かせてるのかもな。Sっ気あるし、ホント鬼だよ。」
最後は独白に近い。
A氏がほぼ今のコメント全体にアンダーラインを引く。
最早机と紙の区別がついていない。
「そうか。」
興奮を鉄面皮の裏に隠しながら、A氏は言った。
スクープだ。
早速纏めなければ…。
「バージルにやられた傷はもう良いのかね?」
「あぁ、まぁな。」
実はDさんはバージルとちょっとしたケンカで腹をぐっさりやられたばかりだったのだ。
腹いせついでにA氏を訪れ、ストロベリーサンデーをご馳走になりながら話をしていたが、さすがに少し喋り過ぎたかもしれないとDさんは思った。
「そろそろ帰ろうかな。サンデー美味かった。ご馳走さん。」
「…………。」
A氏はDさんを無言で見送る。

A氏は扉を閉めた時にはG氏に変身していた。





END



 

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