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□春の散歩道
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「憂夜さん、散歩に行かない?」

店が閉まった明け方。

「朝からよく晴れてますし、いいですね」

憂夜さんと2人で近くの公園に行った。
「ブランコなんて久しぶりだなー」

子ども用のブランコは、当たり前なんだけど大人が乗るには小さい。

それでも懐かしくてブランコの上に立つ。

憂夜さんも隣のブランコに同じように立った。

「ぷっ」

「なんですか?」

思わず吹き出したら、咎めるように憂夜さんが綺麗に片眉を跳ね上げた。
でもそれは憂夜さんの癖ともうしっている。

「似合わないよねー」

憂夜さんは日常生活のイメージがないせいか、この光景にギャップがあって面白い。


「店長はわりと似合いますよ」

「どうせ子どもっぽいわよ」

わざと拗ねたように言ってみせる。
憂夜さんは微笑んだだけ。


「あ!飛行機雲!」
はるか上空に、一筋の飛行機雲が見えた。


「静かで、少しひんやりだけどあったかくていい気持ちだなぁ」

キィ、、

ゆるりとブランコ揺らしながら、春の空を感じた。

「さ、そろそろ帰りましょう。少し寝たほうがいいですよ」
憂夜さんが一足先にブランコを降りてあたしに手を差し出した。

「じゃあ、よく眠れそうなハーブティー淹れてくれる?」

「もちろんです」

ブランコから降りて憂夜さんの手をとったら、そのままぎゅっと握られた。

「…春だね」

「そうですね」

2人で歩いていく。

「今日は晴れだね」

「そうですね」

同じ歩幅で。


「一緒に寝る?」

「そうですね……え?」

驚いた声を小さめにあげて憂夜さんが立ち止まった。


「ふふ、そうそう、憂夜さんはそんな顔もするんだよね」

あたししか知らない憂夜さんがいる。
それはとても嬉しいこと。

「晶さん…」

憂夜さんが恨めしそうに嘆息した。


「だましてないよ、本当にそう思ったんだから」

反応を見たかったのもあるけどさ、それは言わない。
でも憂夜さんには見透かされてるんだ、きっと。

「そうですね。ハーブティーを飲んだら、2人でねましょうか」

「みんなが来るまで、ね」


そして再び店へと歩き出した―――





end
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