* text

□宣戦布告
1ページ/1ページ

憂夜さんと空也さんの大事なものを奪って苦しみを味あわせてやるって、そう言ってたそうだ。


そのジョン太の話をきいて、

憂夜さんも空也さんも、堅い顔をしてた。

なんだよ、大事なものって。


だったら、もっとちゃんと守れよ。

もっと必死になれよ!

なんでそんなに冷静なんだよ!


空也さんは、必死に見えた。空也さんは空也さんなりに店長が大事なんだってわかった。

けど、それを抑える憂夜さんは全然必死には見えなくて…


「憂夜さん」

俺は、階段の陰に憂夜さんを連れていった。

「樹、なんだ」

憂夜さんの表情にいつもとの違いは読み取れない。

「店長のこと、大事なんですか」
ストレートにきいたのに。

「………」

憂夜さんは、何も答えない。それどころか、表情のひとつも変えなかった。

その様子に、カッとなって襟を掴んでしまう。

「答えて下さい。……憂夜さん!」

「………」

憂夜さんは、俺の目をまっすぐ見つめたまま、襟をつかむ俺の手を掴み、はずした。
それだけだった。


「……俺は、店長大事ですから。俺が、助けます」


憂夜さんは踵を返して、俺に背を向けて、階段を上がっていった。

階段の陰から出ると、そばに犬マンが立っていた。

「樹、お前、憂夜さんのこと全然わかってないな」
「犬マン…」
犬マンはメガネを押し上げ、苦笑した。
「あの人は本当に怒ると感情を外に出さなくなるんだ。あの人が店長のこと大事じゃないはずないだろ」

「…わかってるよ」
そんなことは、本当はわかってる。
憂夜さんは俺から視線をひとつもはずさなかったし、俺の手を掴んだ手も、すごい力だった。

突っ走って助けに行きたいけど、我慢してるのがひしひしと伝わってた。
でも、俺は憂夜さんの口からききたかった。


「悔しいんだろ」
犬マンが、そう言った。

「……」

そう、俺は悔しかった。
俺はみんなと同じ扱い。憂夜さんは違う。
店長はいつだって一番頼りにしてるのは憂夜さんだ。

店長は憂夜さんの大事な人だって、みんなにわかってる。

俺だって、大事なのに。
この、公認みたいな図が悔しい。

唇を噛むと、犬マンが肩をすくめて俺の肩を叩いた。


***


店長を助けたあと、憂夜さんが俺に言った。

「俺も、店長が大事だ」

まっすぐそう言われた俺は、けれどもおどろかなかった。
わかっていたことだったし、
憂夜さんはこういうふうにわりと律儀な人だ。

「いつか絶対、割って入ってやりますから」

にやりと笑ってそう言ったら、

「望むところだ」

憂夜さんにそうフッと笑われた。


余裕綽々なのが、やっぱり悔しい!





end

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ