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□あらしのよるに
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あらしのよるに



風が吹き荒れて、
横殴りの雨が窓を叩き。
雷はあちこちで稲光を放つ。


「眠れませんか?」
何度目かの寝返りをうったところで、背中の向こうから声をかけられた。

「ごめん、おこしちゃった?」

再び寝返りをして、向かい合う。

「平気です。すごい嵐ですね」
「うん、そうだね、せっかく咲いた桜も吹き飛ばされそう…」
屋外でうなる風の音をききながら、つぶやいた。
せっかく咲いたのに、もったいない。

「大丈夫ですよ、きっと」

目の前にある、切れ長の目が優しく微笑むから。
あたしは、そのむき出しの肩口に顔を寄せた。
憂夜さんは首の下に腕を通してくれる。

こんなとき、ひとりでなくて良かったと思う。

あたしには憂夜さんがいてくれる。
ホストのみんなも、なぎさママもいる。
ついでに塩谷さんも。


寂しくない。
寂しくはないけど、こんな夜はやっぱりひとりでいたくない。

「憂夜さん」
「はい」
「憂夜さんがいてくれて、良かった」

そういって笑えば、ふわりと抱きしめられる。
髪を梳かれ、その気持ちよさに目を閉じた。

憂夜さんの呼吸で上下する胸が、心地よい眠りを誘う。


「おやすみなさい、晶さん」


憂夜さんがそういってくれた言葉は、あたたかな眠りについた私には、届かなかった。






end

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