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□春待ち
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「あーさむい! もうすぐ4月なのになんなのこの寒さ!」
晶が身を縮めていると、隣を歩いていた憂夜がくすりと笑った。
「晶さん」
そう憂夜に呼ばれた。
「な、なに?」
いまだにそう呼ばれ慣れない晶は、気恥ずかしそうに返事をした。
「はい」
手を出されてポカンとする。
「どうぞ」
憂夜の意図することがようやくわかり、晶は顔を真っ赤にした。
「え、いや、あの、でも」
恥ずかしさにしどろもどろになりながら、こんなおばさんと手を繋いだら…なんて余計なことまで考えた。
「晶さん。俺が繋ぎたいんですが?」
器用に片眉だけあげて、憂夜が晶を見つめる。
「…うん。ありがと」
晶は、差し出された手に冷たくなった自分の手を重ねた。
そうして、店までの道を再び歩き出す。
「憂夜さん」
「はい」
「…あったかい」
晶がそう言うと、憂夜は優しく微笑んだ。
「晶さんがあったかければ、俺もあたたかいですよ」
春は、もうすぐ。
END