零式長編

□七
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別々の作戦についていた0組全員が、皇国首都のホテルで合流してから暫くすると−−彼らの指揮隊長であるクラサメが現れた。

「待たせたな。諸君の所属、及び処遇については正式に我々の預かりとなった」

皇国首都への単独潜入が任務だった為、彼らの身分を証明する物はない。停戦となった以上、彼らの身分を証明して引き取る必要があった。

だが、クラサメが白虎に来た理由はそれだけではない。

「私達の身分を証明して引き取る為だけに、白虎まで来たわけじゃないんだろ?」

「カリヤ院長は停戦条約に向けた会談に臨むべく、ここ、白虎に滞在している。私は随伴員だが、諸君の指揮隊長でもあり、状況の説明と指示を行う義務がある」

「……そうですね。この状況、しっかり説明していただきたいものです」

目を覚ましたもののまだ辛いのか、ソファーに腰掛けて冷たい声を出す。

そして、傍に立っていたマキナが一歩前に出た。

「隊長、質問の許可を願います」

「何だ」

「朱雀議会はオレ達の作戦を理解していたはずです。何故停戦条約に同意したのですか?」

口調は丁寧だが、マキナの瞳には明らかに怒気がこもっている。

「皇国が、朱雀に対する全面的な譲歩を条件に出したのだ。そうなれば、議会が拒否する理由は無い」

クラサメの言葉を聞き、マキナはキッと彼を睨みつけた。

「オレ達は新型実験機の破壊に成功してたんだ!そんなのは時間稼ぎに決まってる!」

「落ち着けよ、マキナ」

マキナの肩にポンと手を置き、押しのけるようにアルは前に出る。

「……で、その話を信じたのか?朱雀議会は」

馬鹿じゃねぇのか……と小さく呟き、クラサメを見下ろした。

「口を謹め、アルフレッド・レイン。……皇国から条件提示が行われたのはその前の段階だ。侵入作戦中だった諸君への連絡が後となっただけのこと」

アルがチッと舌打ちをすると、今度はエースが一歩前に出る。

「皇国に裏が無いって、議会は本気で考えているのか?」

「他国の思惑がどうあれ、条約が締結されればこの戦争は終わる。他に質問はあるか?」

エースが押し黙ると、辺りはシンと静まり返った。納得出来ないが、納得するしかない……そういった雰囲気だ。

「会談が終わるには、まだ暫く時間がかかる。作戦の疲れも残っているだろう。諸君はここに一泊し、明日朱雀に帰投すればいい」



「……白虎になんて、一秒でもいたくないのに。それにここの空気、レムに良くないよ」

「あぁ。それにアイだって、こんな所じゃ満足に休めないだろ?」

アイがはぁ、とため息をつくと、マキナはポンポンとアイの頭を撫でながら渋い顔をする。



「明日の午後までは休暇扱いだ。軍事区域以外の行動は許可されている。皇国の首都に来る機会など、そうは無い。市内を回ってみたらどうだ?」

「別に来たくて来たわけじゃねぇし」

「そうします」

アルの言葉に被せるようにして、レムは彼を肘でつつきながら言った。

「候補生としての立場を忘れず、有意義に過ごせ。以上だ」

























「アイ」

クラサメが部屋から出て行くと、気遣わしげな表情を浮かべながら、アルはアイの横に腰掛けた。

「大丈夫か?」

アルがそう尋ねると、アイはニコッと微笑む。

「大丈夫だよ。すぐにエース達がケアルかけてくれたから、もう動ける。……それよりも、さ」

急に真剣な表情を浮かべてアルの瞳を覗き込むと、彼女の考えていることが分かっているのか、アルはコクリと頷いた。

「あぁ、明らかにおかしい。このまま何事も無く朱雀に帰れる……なんて淡い希望は持たない方がいいな」

やんなるぜ、全く……と言いながら頭をガリガリとかく。

「念の為、ここのホテルの見取り図は覚えたけど、もう少ししたら街の方にも出てみる」

「無理はすんなよ?俺もなるべく街を見とくから」

頭を撫でながらそう言うと、アイはくすぐったそうに笑って頷いた。





その時――突然扉がゆっくりと開いた。




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