緋色の欠片長編
□第五章
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『すまない』
『すまなかった』
『どう言って、詫びたらいい』
彼女に謝ったように、男は嗚咽混じりで何度も何度も謝る。
『もう、よい。もう謝るな。私に謝って何になる』
この男が憎い。
私の大切な友を奪った、この男が憎い。
『お前が私に何度謝ったところで、玉依姫命は帰ってこない』
憎しみ。悲しみ。怒り。悔しさ。憂い。
全ての負の感情が身体中を駆け巡った。
『……だが、決してお前だけが悪いのではない』
しかし、それ以上に……どうしようもなく、この男が愛しかった。
『私も悪いのだ』
そう、この感情のせいで、彼女は殺されてしまった。
この男を愛し、友を守れなかった罪は重く、到底許されるものではない。
『すまない、友よ』
私は、この思いを男に告げることは無い。
彼女が伝えたくても伝えられなかった気持ちを、どうして私がのうのうと伝えられようか。
『すまない……』
――頬を、熱い物が流れていった。
目を覚ますと、もうすっかり見慣れた天井が見えた。
……頭、重い。
「風邪……?いや、寝過ぎ、かな……。……あれ?」
ふと頬に触れると――濡れていた。
「……涙?うわ、カッコ悪。夢で泣いたのか、あたし」
ごしごしと擦ると、ちょっとだけヒリヒリする。やっべ、やりすぎた。
「んー!目も覚めちゃったし、今日はゆっくり学校行こ」
ぐっと伸びてベッドから降り、あたしは階段に向かった。
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