GOD EATER2長編

□第六話
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「ホントにホントに大丈夫?このまま医務室に行った方がいいんじゃないの?」

フライアへと帰還してターミナルで先程のアラガミについて調べていると、心配そうに顔を覗き込みながらナナがそう言ってきた。その横ではロミオも、同じような表情を浮かべている。

「大丈夫だよ、帰りのヘリで結構眠れたし、手当てもちゃんと受けたしね」

「いやいや、いきなり目の前で気ぃ失われたら誰だってビビるし心配するだろ!」

「本当に大丈夫だよ。心配してくれてありがとね、二人共」

ニコリと笑って頭を撫でると、ナナはえへへと嬉しそうに笑い、ロミオは照れたように頬を朱に染めてそっぽを向いた。





「失礼、少しよろしいかな」

「ん?……あ、エミール!」

――そこに、少し暗い表情のエミールが現れた。

彼が何故そんな顔をしているのか察したルナリアは、作業をやめて彼に向き直る。

「……先程の討伐任務では、君に大きな借りができた……まずは、礼を言わせてくれ」

「そんな、借りだなんて……私は私に出来ることをしただけだよ。それよりも、怪我の方は大丈夫?」

ルナリアがそう尋ねると、エミールの目がカッと見開かれた。そして右手で額を押さえ、左腕をバッと振り上げる。

初見ではないとはいえ、彼のオーバーリアクションには驚かされる。

「何という奥ゆかしさ……!実力だけではなく、礼節をも兼ね備えているというのか……!」

そしてズイッと詰め寄られる。ルナリアは苦笑を浮かべ、少しだけ後ろに下がった。

「そして何より、あのアラガミ相手に見せた力……君こそが、世界を包む闇を払う剣なのかもしれない……。今は僕が後れを取っているかもしれない……だが!ライバルとして、すぐ君に追いついてみせようッ!」

「ラ、ライバル……?」

「あぁ、我が友よ!」

ライバル……そんなふうに言われたのは初めてだ。新鮮だが、やはり戸惑いの方が大きい。

「まことに遺憾だが、僕はもう極東に帰らなければならない……しかし!次に会った時、お互い研鑽の成果を見せ合おうじゃないか!その時を楽しみにしているよ、我が友よ!」

「う、うん……元気で。また会おうね、エミール」

そう言って手を差し出すと、エミールは最初に会った時のように乱暴ではないがとった手を激しくぶんぶんと振り、最後は此方に背を向けて右腕を突き上げながら去って行った。



「あ、嵐のような人だったなぁ……」

「極東支部ってあんな人ばっかなのかな」

「でもお菓子いっぱいくれたから、いい人だよきっと!」

「お前いつの間に……」

本当にいつの間にお菓子など貰っていたのだろうか……。というか、ナナの「いい人」「悪い人」の区別は食べ物をくれるかくれないかで判断されるのだろうか……。

色んなことをひっくるめ、ルナリアはため息をついて苦笑を浮かべたのだった。






























「ついに「血の力」に目覚めましたね……ジュリウスに次いで、貴女が二人目です……おめでとう」

「ありがとうございます、ラケル博士」

エミールと別れた後、ラケルから呼び出しを受けたルナリアは彼女の研究室を訪れていた。



「さて……何からお話ししましょうか……」

「……ラケル博士、あのアラガミは「マルドゥーク」というのですか?」

「あら、もう自分で調べていたのですか」

「はい。……しかし、「感応種」というものがよく分からなくて……」

おそらく、あの「マルドゥーク」というアラガミ自体の目撃例がまだ少ないのだろう。他のアラガミと比べて、圧倒的に掲載されている情報が少なかった。

「「感応種」と呼ばれるアラガミは、強い「感応現象」によって他のアラガミを支配しようとすることが分かっています……」

「他のアラガミを……支配……本当に、そんなことが可能なんでしょうか」

「驚くべきことですが、アラガミは日々進化し続けています……。あり得ないことではありません」

「…………」

アラガミ自体が常軌を逸した存在だ。深く考えるだけ無駄だということは分かってはいるが、やはり驚きは隠せない。

「……オラクル細胞を持つ神機も、言わばアラガミの一種……エミールさんの神機が動かなくなったのはその為です」

「「感応現象」……確か、オラクル細胞同士が互いに影響を与え合うこと……ですよね?」

「はい、その通りです」

聞いた話によると、極東の新型神機使い同士にも「感応現象」が起こり、互いの記憶を共有することが出来たとか何とか……俄かには信じ難いが、何とも不思議な現象だ。

「それは貴女達神機使い同士や、神機そのもの……そして、アラガミとの間で……それぞれ起こり得る現象なのです。強力な「感応現象」を以て、「感応種」の支配に対抗する……そう、ブラッドの持つ「血の力」も感応現象の一種」

「……つまり、私がマルドゥークと戦うことが出来たのは、「血の力」に目覚めることが出来たから……」



――ゾッとした。

逆に言えば、「血の力」に目覚めることが出来なかったら、ルナリアはあの場で為す術もなくマルドゥークに殺されていたのだ。

……冷たい汗が、ツーッと頬を滑り落ちて行った。





「一般的な神機が「感応種」の支配に負け、機能停止するところを、「血の力」は敵の支配力を凌駕するのです。「感応種」に対抗出来るというのは、まだ仮説だったのですが……フフッ……図らずも、貴女がそれを証明して下さったのですね」

「……お役に立てたのなら、良かったです」

まだ心臓がうるさい……が、切り替えよう。

今自分は生きていて、また仲間達と戦い、アラガミから人々を守ることが出来る。

それが一番で、それが全てだ――。





「あぁ、そういえば……嬉しいことは続くものですね。またブラッドに、新しい家族が増えることになりました。貴女より四つ年下の、女の子ですよ」

ポンと両手を合わせ、ラケルは柔和に微笑みながらそう告げた。

「ということは、ブラッドの中では最年少ですね」

「そういうことになりますね。……フフッ、お願いしますね、ルナ」

「はい、ラケル博士」





「ブラッドは家族」……そう言われる度に、ルナの心は暖かくなる。幼い頃に両親を立て続けに亡くし、兄弟姉妹もいなかった彼女にとってブラッドの仲間達は本当の家族のように大切だ。

新しく増える家族のことを考えると、先程まで沈んでいた気持ちが自然と上がっていた。



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