ハイキュー!!
□D
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「ねぇ徹、徹って今、結構強い抑制剤飲んでるんだよね?」
「うん、フェロモンも発情も抑えなきゃいけないからね。あと飲んでる薬の数も多いかな」
「……そっか」
徹に全部話してもらってから、私達はこれからについての話し合いを始めていた(五時間目はサボることにした)。
やっぱり徹の体調がおかしかったのはΩ性と抑制剤のせいで……そんな辛くて大変なことを一人で我慢させていたかと思うと、やっぱり自分が情けなくなる。
いくら徹自身が隠していたとはいえ、言われてみれば全てΩ独特の症状と一致する。あたしが勝手に彼がαだと決めつけて思い込んでいたから、気づくのが遅れたのだ。
それにそもそも私がαじゃなければ、徹をここまで追い詰めることもなかっただろう。
「……ごめんね徹、私がαなばっかりに……」
さっきは気づいてあげられなかったことをひたすら謝ったけど、徹が苦しんでいるのは元はと言えば私がα性に生まれたせいだ。
そうじゃなければ私にも一にもΩだと分かった時点で教えてくれていただろうし、一に心配をかけることもなかっただろう……。
「(……あ、何か涙出そう……)」
体育座りのまま、私はうずくまって顔を埋めた。
「……さっき、深雪は俺に言ってくれたよね?徹は悪くないよ、って」
−−ふいに、優しい手がポンと頭に置かれた。
そしてそのまま、髪をすくように撫でられる。
……あぁ、落ち着くなぁ。
「だから深雪も悪くない。それに、俺が深雪に迷惑かけたくなくて選んだことなんだからさ」
「……迷惑なんて、思わない。だって、どんな徹でも徹は徹だから」
「うん、ありがと」
「…………」
顔を上げると、優しく笑う徹と目が合った。
……何だか、久し振りに徹の笑顔を正面から見た気がするなぁ。
「……もう、私のせいだって言わない」
「うん、俺も言わない。だから一緒に考えて?これからどうすればいいかをさ」
「うん……分かった」
まずは最優先事項、徹の体調を少しでも回復させることだ。
「もう私にはバレちゃったんだし、薬の量少しでも減らせないかな?」
今徹を苦しめているのは、殆ど抑制剤の副作用だ。本格的な発情期はまだみたいだし、少しでも薬の量が減れば体調も良くなる筈だ。
「……うん、やってみる。……学校とか部活中、少しでもアレ?って思ったら教えてくれる?」
「ん、了解」
どうやら発情期は来ていなくてもまだ色々安定していないからか、普段から出ているフェロモンの量が少し増えてしまっている&徹自体も軽い発情をしてしまっている、という状態らしい。
……成る程、だからこんなふうにちょっと甘い匂いがするのか。
何にせよ、私がしっかりしないと只でさえ大変な徹がますます不安になる。気をつけないと。
「じゃあ今日からちょっとずつ減らしてみようか。気分悪くなったらすぐ言うんだよ?中総体の地区予選も近いんだし、無理は絶対に禁物だからね」
「分かってる、もう一人で頑張るのはやめるよ。深雪にも岩ちゃんにも心配かけたくないしね」
「……まぁ、徹を心配しなくなる日なんて、一生来ないと思うけどね」
思ったことをそのままポツリと呟くと、徹は目を丸くする。へ?私そんな変なこと言った?
「……俺ってそんなに危なっかしい?」
「う〜ん、それもあるけどさ……大切な人を心配するなんて当たり前じゃない?」
正直、ここまで心配するのは家族除けば徹と一くらいかもしれない。私案外、自分優先な人間だし。
「……そっか」
……あれ?何か徹が嬉しそうだ。
「徹、口が寝言むにゃむにゃ言ってる時のタマみたいになってる」
因みにタマとは、うちの近所をウロウロしている野良猫のことだ。たまにうちの玄関の前で寝てたりして何度か踏みそうになる。
「えっ?あ、うん……」
口元を袖口で隠して私から視線を逸らすが、照れてることや喜んでることは丸分かりだ。
……何だろう?大それたこと言ったつもりはないんだけど、何だか私まで照れてきた……!
「と、とりあえず話戻そうか!」
「う、うんそうだね!」
慌ててその場を取りなし、私は徹に向き直る。これから真面目な話するんだから、気を引き締めないと……。
……そう、徹がΩだと確信した瞬間、頭に浮かんだ一つの選択肢だ。
「……あのさ、徹……薬を減らして体調が良くなっても、いずれは本格的な発情期が来るわけじゃん?」
「……ん、そうだね……面倒なことに」
……表情を見ても、本当に嫌そうなのが見て取れる。
「そこで私、考えたんだけどさ……」
一旦言葉を切り、深呼吸する。幼なじみとはいえ……いや、幼なじみだからこそ、コレを言うのは相当な勇気がいる。
何故なら、軽々しく言えない一生ものの話だからだ。
「……私達、番にならない?」
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