ハイキュー!!

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世の中には男女の性別の他に、α、β、Ωといった、血液型に似た識別が存在する。

つまり……α男性、α女性、β男性、β女性、Ω男性、Ω女性と、人間は六種類に分けられるのである。

αは簡単に言えばカリスマ性の強いエリート人種で、様々な能力に長けていて、リーダーに向いている。小さいコミュニティーなら学校の生徒会長や部活のキャプテン、大きいコミュニティーなら会社の重役、社長、国の代表などだ。

その特性上数は少ないし、αは基本的に受験にも就職にも有利だ。生きていくのに一番困らないのは、圧倒的にαだろう。

そしてα女性の特性に、女性であるにも関わらず相手を妊娠させることができる、というものがある。つまりα女性は、事実上の両性具有なのだ。



βは所謂「普通」の人達。八割近い人間がこれに該当する。αを差し置いて出世するのは難しく、大概は「並」か「並より少し上」で終わる。まぁ頑張って能力を伸ばして出世するβもいることにはいるらしいけど、αに本気で勝てると思ってる人はめったにいない。

因みにβ同士の夫婦に子供ができた場合、高確率でβになる。



そしてΩ……ある意味これが一番複雑で、一番厄介と言える。

一番の特徴はやっぱり……【Ω男性は普通の女性と同じように、体内に子宮を持っている】ということだろう。Ω男性は男性ながら、条件を満たせば妊娠してしまうのである。

Ωには十代中頃から後半にかけての間に、最初の「発情期」というものがやってくる(「ヒート」と言ったりもする)。ある程度安定すると三ヶ月に一回のペースになるが、最初の一年は特に来る時期が不安定で本当に厄介らしい。

発情期が来ると、Ωはコントロール出来ない程の強いフェロモン(微量のフェロモンなら普段から出ている)を身体から放出させてしまい、番(ツガイ)のいないαを無差別に男女構わず引き寄せてしまう(因みにフェロモンを発している時は身体から甘い匂いがするらしい)。

番とはαとΩの本能的な繋がりでできたペアのことを言うのだが……まぁ詳しくは追々。

発情期中のΩは、一週間もの間発情以外殆ど何も出来なくなってしまう。当然学校も会社も休まなければならない。

歴史上Ωは子供を産む為だけの仕事をしていた時期もあり、昔はΩというだけで冷遇されたり蔑まれたりして、人間として普通に生きるのも難しかったらしい。その上、殺されたりレイプされたりしても、相手がΩだと罪も軽い等、Ωの人権は無いに等しかった。

そんな酷い時代と比べれば、今は劇的にΩの人権が尊重されるようになり、生きやすくなったと言える。

だけどやっぱりそういうイメージは今の時代でも完全には取り払われていなくて、Ωというだけで進学や就職に多少なりとも影響はするし、差別や偏見もまだあって、「Ωって可哀想」って思われたりもする。

そして外で発情期が来てしまった場合、発情していて上手く動かない身体でフリーのαから逃げなければならない。それは相当な危険を伴うことだ。

今でも発情期中のΩがαにレイプされた……何て事件もそんなに珍しくない。



……さて、ここまで読んでもらえれば分かると思うが、今の時代でもΩは生きるのに色々苦労するし、危険が伴うし、嫌な思いもするし、面倒だし、出来ればそうは生まれたくないと思うのがまぁ普通の考えだろう。



それは俺−−及川徹も例外ではない。

























「…………マジで?」



中学三年の四月、俺達は性を調べる為の血液検査を受けた。

日本では進学に関わってくる為、そして何よりもΩの発情期は大体が十五歳辺りからやって来始める為、中三の春にはαかβかΩか分かっていなければならない(早い人だと親が生まれた時に調べたりしてる)。

もう既に分かっている生徒以外全員の検査が、身体測定や健康診断と共に行われた。





番号順に呼ばれて軽い気持ちで受け取り、席に戻りながら開いた検査結果が書かれた紙……それにはこう書かれていた。



−−血液検査の結果、あなたはΩ男性でした、と。



「(オ、メガ……?俺が……!?)」

割合的に言えば、Ωはαよりも少ない。そんなものに自分が該当するなんて勿論俺は夢にも思わず、自分は当然βだと思っていた。

……冗談じゃない。誰彼構わずフリーαを引き寄せてたら、絶対に面倒なことになる……今の俺は、そんなことに構ってる余裕はないんだ……!

それに、もし岩ちゃんか深雪がαだったら……二人にかなり迷惑をかけることになる……。





「徹ー、どうだったー?」

「っ!?」

その場に立ち尽くしていると、隣の席の深雪がそう尋ねてくる。

……身長はどれくらい伸びたのか、スポーツテストの総合評価はどうだったのか、そんな類の結果を聞いてくる時みたいに、いつものような軽い口調で−−。



深雪も、岩ちゃんも、俺がΩだからって離れて行ったりしないって信じてる。それくらい俺達は一緒にいたし、笑ったり泣いたりいろんなことを共有してきた。



……でも、もし……もし万が一、二人が俺を拒絶したら……?

他の人なら、辛くないと言ったら嘘になるけど何とか我慢出来る。だけど……二人に、そんな態度をとられたら……?

−−俺はきっと、耐えられない。





「……んー、深雪はどうだった?」

「私?私はねー……何とαでしたー!」

ふふふと笑って、ブイサインを作る深雪。

「っ!!(深雪が……α……)」

……それを聞いた瞬間、俺の答えは決まった。



「あ、やっぱり?深雪はそうだと思ってたんだよね〜。因みに俺はβだったよ」



−−俺は、嘘をついた。

彼女がαなら、いつかはバレてしまうかもしれない。だけど、深雪から距離を取られたくない、深雪に迷惑をかけたくない……だからその日が来るまで、俺がΩだってことは隠し通そう。

抑制剤でも何でも使って、俺は普通なんだって、今までと何にも変わらないんだって、二人に感づかれないように、普段通りに振る舞おう。



「あれ?徹はてっきりαだと思ったのに」

「ふっふっふ、βながらも及川さんのカリスマ性はαレベルなんだね!さすが俺!」

「ウッザ!」





−−そう言って笑う深雪の笑顔が、その時だけは真っ直ぐ見れなかった。



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