ハイキュー!!
□A
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「はっじめー、いるー?」
ある日の昼休み、私は隣のクラスを訪れた。もう一人の幼なじみと、あることについて話す為だ。
「おう、深雪」
窓際の真ん中に位置する自分の席に座り、一は数名の友人と話していた。
「ごめん、ちょっとこいつ借りんね。一、こっちゃ来い来い」
周りに許可を取り、一を廊下に連れ出す。
いつものように茶化されたので、「大事な話があるからお前ら邪魔すんなよ〜」と軽い口調とウインクを返した。
適当を装って答えておけば、好奇心旺盛な中三男子と言えど覗きに来ることはない。
「……ま、話したいことは大体分かってる」
「さすが一、以心伝心だね」
ケラケラ笑った後、私は自然と真顔になる。
「……最近の徹、色々とおかしいよね?」
「…………あぁ」
私の言葉に、一は少しの沈黙の後、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。
私達の幼なじみ、及川徹。彼は本当にバレーが大好きで、そして本当に努力家だ。元々センスにも体格にも恵まれていたけど、それにおごらずに上を目指すことができるスゴい奴だ。
……そんな徹が、背後に天才が現れたことで、最近ますます練習に打ち込むようになった。……笑わなく、なった。
前には越えられない壁、後ろには凄まじい勢いで進化する天才……端から見ても、彼が焦っているのは一目瞭然だった。監督にも注意されていたし、このままではいずれ必ず身体を痛め、壊してしまうだろう。
「……まぁ徹のオーバーワークに関しては、私と一が協力してセーブすればいいんだよね。ひとまず何とかなる。てかする、絶対に」
「当たり前だ」
−−そう、一番の問題は、徹のオーバーワークに関してじゃない。
今一番の問題は……私達には何ともできない、彼の体調が最近不安定なことについてだ。おそらくそれは、私の気のせいなんかじゃない。
体調が不安定と言っても、咳をしてるとか、腹痛や頭痛に襲われるとか、吐き気がするとか……そういった類の体調不良ではない。
たまにふらついたり、頬が紅潮していたり、身体が熱かったり、息切れするのが早かったり、息遣いが荒かったり、触れると異常なくらいに肩を上げて驚いたり、異常なくらい眠そうにしていたり……と、いったような症状だ。
徹は隠しているつもりだろうけど、他の連中はともかく私と一の目は誤魔化せていない。
だがそのどれを指摘しても、徹は明らかな作り笑顔で「何でもない、大丈夫、心配しないで」と言うだけだった。
……それはまるで、これ以上聞くな、踏み込んで来るな、と言われているかのようだった。
徹のことは心配だ。生まれてから私達三人はずっと一緒だったのだから、姉弟同然だ。心配するなと言われても、心配するに決まってる。
……でも私は、怖くなった。言われる度に不安になった。もしかしたら徹は、私を拒絶しているのではないか、私を遠ざけようとしているのではないか、と。……私はもう、徹にとって必要のない人間なのではないかと。
何か彼の気に障るようなことを、無意識にしてしまったのかと思ったが……どうしても理由が見つからない。
「いくら隣のコートとはいえ、練習中は徹ばっかり気にしてるわけにはいかないから……一、徹のこと、頼むね」
だからといって、放っておけるわけもなく……言われずとも一なら分かっているであろうことを、わざわざ呼び出して言ったわけだ。
……ホント、いい加減年齢に応じた幼なじみへの対応を覚えろっての。いつまでも子供じゃないんだからさ……。
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