ハイキュー!!
□C
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【バレーは六人で強い方が強い】
一の力強い言葉は、徹を独りぼっちの水の底から引っ張り上げた。
いつもそう。私達二人を助けてくれるのは、いつも一の力強い言葉と行動だ。
屈託のない明るい笑顔で「もう一本!」と言う徹を見て、私は心底安心した。
これに関してはもう大丈夫。徹は、自分のバレーをちゃんと取り戻した。
でも−−。
「はぁ〜〜〜」
「陰気がうつる、ヤメロ」
ため息をつく私の頭に、ズビシッと手刀が落ちてくる。
突っ伏していた机から顔を上げてジロリと睨むと、今度はデコピンが返ってきた。
−−犯人は、私の前の席に座って、紙パックのココアを飲んでいる一人の女子。我らが北一女バレのセッター様だ。
性格は一言で言えば「男勝り」。外見は誰もが振り返る清楚系美少女なくせに、その実体は、豪快でちょっと横暴で、すぐ手や足の出る、口の悪い外見詐欺な残念女子である。
全く……外見に騙されて泣かされた男子が、一体何人いることやら……。
「……今何か失礼なこと考えなかった?」
「メッソウモゴザリマセン」
ついでに言うと勘も鋭い。怖いくらいに。さすがセッター。
「普段はぱっぱらぱーなくせに何悩んでんの?最近特におかしいよ、アンタ」
「ぱっぱらぱーって……私だって人並みに悩むことだってありますー」
……まぁ、自分のことじゃここまで悩まないと思うけど……。
焦りから来るオーバーワークは止まったけど、依然として徹の体調は良くならない。
原因を探ろうにも、彼は大丈夫としか言ってくれない上に私を近づけようとしない。
嫌われたわけではないことは、一のおかげで分かったけど……徹の力になれない自分に、どうしようもなく腹が立つ。
「……まぁアンタがそこまで悩むのは、幼なじみ二人って相場は決まってるんだけどね」
「……さすがは我らがセッター様。何でもお見通しですか」
「なめんな、仲間の考えてることが分かんなくてセッターが務まるか。……ま、アンタとは付き合いも長いしね」
因みに私達、小学校のクラブチームから一緒です。
「……で、今回はどっち?」
わしゃわしゃと無造作に私の頭を撫で、尋ねてくる。
「…………徹」
そう答えると、彼女はキョトキョトと目を瞬かせた。
「徹なら、最近は前の調子取り戻しただろ?焦りもなくなったみたいだし……他にまだ心配事あんの?」
「……うん」
私が力なく肯定すると、彼女は今度はポンポンと優しく私の頭を撫でてから一気にココアを飲み干し、紙パックをゴミ箱に投げ入れた。
それから私に真っ直ぐ向き直る。どうやら聞いてくれるらしい。
……こういう優しいところがあるから、私は彼女のことが好きなのだ。
「……ねぇ、私って頼りない?」
「うんにゃ、アタシらにとっちゃ頼れる主将だよ。試合でも普段の練習でもね」
「……うん、ありがと……」
自慢じゃないが、今まで生きてきた中で「頼りない」と言われたことはない。寧ろいつもその逆を言われてきた。
小学生の頃も、六年生になったと同時にキャプテンマークをつけたし、一番も背負った。今だったそうだ。
頼られると嬉しいし、力になってあげたいと思うし、それが自分の自信となった。
……どうして徹は、私を頼ってくれないんだろう……?
「……徹ね、最近調子悪そうなんだ……」
「まぁ常に絶好調な奴なんていないだろうけど……アンタが言うならそうなんだろうね」
「……でも、何にも言ってくれない……」
頼られないことが、こんなにも辛いものだとは知らなかった。
もしかしたら、そういう変な癖がついてしまったのかもしれない。
……それとも、徹だから?
「……徹だってお年頃だし、異性の私には言えないことだって増えてくると思う……」
「それに関してはお互い様だろ」
……確かにそうだ。でも……。
「……今回は、違う気がする……根拠なんてない、ただの勘なんだけど……」
「……成る程ねぇ」
そう呟くと、彼女はアゴに手を当てて考える素振りを見せる。
「……深雪、徹の様子がおかしくなったのっていつぐらいから?」
「えっと……健康診断の結果が返ってきた辺り、かな?」
私がそう答えると、彼女は額を押さえてため息をついた。
「…………間違いない、多分ソレだ……」
そして、聞きとれない程小さな声で呟く。
「……え?えっ?何?聞こえなかっ「深雪、ちょっと来い」へ!?」
そう言うや否や、彼女は私の手を掴んでスタスタと歩き出す。へ?何!?
「ちょ、どこ行くの!?」
「人がいない場所。ここじゃあ人が多すぎる」
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