ハイキュー!!
□D
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「きっついなぁ、もう……」
現在昼休みが終わる五分前……だけど俺は、まだ一人で屋上にいた。
理由は簡単……抑制剤のせいで、我慢できないくらい気分が悪いからだ。
このまま戻ったところで、まともに授業が受けられずに保健室直行コースなのは目に見えてる。いけないことだと分かってはいるが、今回ばかりはサボらせてもらうことにした。
「……また、深雪に心配かけちゃうな……」
ここ数日、俺達はまともに会話をしていない。……まぁ、避けてる俺が全部悪いんだけど。
人によってはたかが数日だと思うかもしれないけど、生まれた時からずっと一緒な俺達にとって、【数日でも会話しない】ことは十分異常事態だ。
……これでいいのかな?と思う。
俺が寂しいというのもあるけど、果たして俺の行動は本当に正しいのだろうか?
小学生の頃、深雪が俺のせいでイジメにあったことがあった。その時にも、俺は深雪を避けた。
凄く辛かったけど、深雪の為だと思えば我慢できた。
……でも、それは大きな間違いだった。深雪の為になんか、なってなかった。
全部全部、俺の勝手なエゴだったんだ。
『もうやだ……徹と話したい、徹とバレーしたい、徹と一緒にいたいぃ〜……!!』
そう言いながら、深雪はポロポロと涙を零しながら泣いたのだ。
――俺はその時、漸く自分の間違いに気づいた。
今の俺は、あの時と同じことをしているんじゃないのか?
「……?」
そんなことを考えていると――階段の方から、何かが駆け上がってくる音が聞こえてきた。
?あと五分で授業開始時刻だ。今更屋上に上がってくるなんて変だし、サボりにしてももう少し静かに上がってくるだろう。一体誰だ?
足音はだんだん近づいてきて、屋上に続く扉の前で止まる。
そして――。
「及川徹っ!!君は完全に包囲されているっ!!」
バアアアンッと勢いよく扉が開き、そこには――たった今考えていた人物が立っていた。
「み、ゆき……!?」
彼女は辺りをキョロキョロと見回していたが、影になっているところにいる俺を見つけると、ツカツカと歩み寄ってくる。
そして、俺の前で止まった。ダッシュしてきたからか、さすがの深雪も息が上がっていた。
「……よく、俺がここにいるって分かったね。どうしたの?もうすぐ授業始まるよ?」
……何だか、ここ数日で一番長い言葉を深雪にかけた気がする。上手く笑えているだろうか?
「…………」
だけど、彼女は何も答えない。膝に手を当てて下を向いて、肩を上下に動かして、息を整えようとしているだけだ。
「深雪……?」
「ごめんね、徹……」
顔を上げてそう言うや否や、彼女は――俺のことを抱きしめた。
…………は?
「ちょっ、深雪……!?」
何で深雪が謝っているんだろう?彼女は何もしていないのに。
……それよりマズい、何だか身体が火照ってきた……深雪から離れないと……!
「気づいてあげられなくて、ごめん、ごめんね徹……」
「だから何「徹がΩだってこと」っ!?」
−−俺の台詞を遮る形で紡がれた彼女の言葉に、俺は完全にフリーズした。
……え?何で?いつ?いつバレた?
いや、抑制剤は毎日飲んでる。バレるわけがない。
「……な、に言ってんの……俺はβだって、言ったじゃん……」
動揺が抑えられていない声でそう言うと、彼女は俺から身体を離して肩に手を置く。
「……じゃあ、私が徹のうなじ噛んでも大丈夫なんだね?」
「!?」
Ωの発情期中にαがΩのうなじを噛むと、その人間同士は番となる。
俺はいつ発情期が来てもおかしくない……今だって身体がちょっとおかしいのに、噛まれて番にならない保障なんてどこにもない……!
「……ごめん、卑怯な聞き方だった」
「ちがっ」
「ごめんね徹、ホントにごめん……」
そう言って、彼女は俺をもう一度抱きしめた。
「……少し、甘い匂いするね」
「っ、離れた方が……!」
「大丈夫、私は至って正気」
彼女の片方の手が頭に添えられ、優しく撫でられる。
「大丈夫大丈夫……徹、大丈夫だよ」
「っ……!!」
……あ、ダメだ……。
小さい時から、俺はこの優しい手つきと声に弱い……。
「み、ゆき……深雪……!」
「うん……」
「俺、ずっと不安で……!」
「うん……」
「深雪に、迷惑、かけたく、なくて……!」
「うん……」
「ずっと、深雪のこと、避けてた……!」
「うん……」
「でも、助けて、ほしかった……!」
「うん……」
「ご、めん、なさい……!ごめんなさい……!」
「何謝ってんのさー、徹悪くないじゃん」
クスクスと笑いながら頭を撫で続けてくれる、深雪の全部が優しくて……ますます涙が溢れ出す。
でも、同時に心が軽くなっていくのも感じた。
……あぁ、やっぱり深雪はスゴい。
「徹は、私のこと考えてくれてたんでしょ?」
「……うん、Ωの発情期は、αに凄く迷惑をかけるから……」
「……そうだね、凄く迷惑だ」
「っ!?」
「でもさ……【そんな小さなこと】で徹を嫌いになったり避けたりするような付き合い、私はしてこなかったつもり。寧ろ、徹と一緒にいられないことの方がずっとずっと辛いんだよ?」
「…………」
「徹、あんたがΩである以上、これからもっと大変なことや辛いことが待ってるかもしれない」
「……うん」
「でもさ、これからは一人で何でもかんでも抱え込まないでよ。私とか一に相談してよ。私と一は何があっても、徹の手を離さないから」
「……うん、ごめん……ありがとう」
腕に力を込めると、痛いよ徹〜と言って、深雪は小さく笑った。
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