ハイキュー!!
□E
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「…………は?」
俺の口から、何とも言えない間抜けな声がもれる。
だけどそこは許してほしい。それくらい、彼女が言ったセリフは衝撃的なものだったのだから。
「ちょ、深雪……もっかい言ってくれる……?」
そう尋ねると、深雪は瞳をパチパチと動かしてから、真っ赤な顔のままうずくまってしまう。
……その反応が、さっき深雪が言ったことが冗談ではないことを証明していた。
「(番……?俺と、深雪が……?)」
考えてなかったわけじゃない。寧ろなるなら深雪がいいなと思っていた。
だけどそれはあくまで俺個人の願望だから、こんな子供のうちから彼女を縛るなんてあってはいけないことだと思ってる。
だからどんなことがあっても、俺から言うことはしないと……心に決めていた。
それなのに……まさか、彼女の口から出るなんて……。
「べ、別にイヤなら「そんなわけない!」っ!!」
彼女が言おうとした言葉を、俺はすぐに否定した。
とっさだった。だけど……コレは心からの俺の本心だった。
「……イヤなわけない、ただ驚いて……ねぇ深雪、本当に俺でいいの?番って、一生ものなんだよ?どっちかが死ぬまで、解消できないんだよ?」
いくら幼なじみとはいえ、この関係が「番」に変わるには俺達は子供過ぎる。
俺達はまだ中学生だし、俺なんてまだ14だ。これからどんな大人になるかも分からないし、進学先の高校でさえ決まってない。
そんな俺達が、結婚よりずっと重い関係を今決めてしまっていいわけがない。
だけど−−。
「……そうだからこそ、徹がいい」
顔を上げて、俺を真っ直ぐ見て、強い瞳で、深雪はそう言った。
「……あのね徹、私もまだ中学生だから、これから一生、徹よりも好きな人ができないなんて無責任なことは言えない」
「……うん」
辛いけど、それが深雪の本心なんだと思う。
「……だけどね、徹以上に大切だったり、心配したり、一緒にいて楽しいなぁ、傍にいてくれて嬉しいなぁって思う人は、きっとこれからも現れないと思うんだ」
そう言うと、深雪は俺の手をとった。
「少なくとも今の私にとって、徹は一番大切だもの。……徹、私ね、徹の「今」も、自分の「今」も守りたいんだ」
「俺と深雪の、今……?」
俺と深雪が、今全てをかけているもの……必死に打ち込んでいるもの……それは−−。
「α性だろうが、Ω性だろうが、私達のバレーの邪魔はさせない、本能になんか、負けない。……大人は、そんな一時の気持ちで一生ものの選択をするなって怒るかもしれないし、間違ってるって言うかもしれない。けど……私は全力を尽くして勝ちたいし、徹にも全力を尽くして勝ってほしい。自分の性を、負けた時の言い訳にしたくない」
「うん……」
練習にせよ試合にせよ、αとΩの本能は確実に俺達の妨げになる。
深雪は、それを防いで、守ろうとしているのだ。
「……何て、どんなに綺麗事並べたって、徹を利用する形になってるのは変わらないんだけどね……」
「……ホント、深雪は優しいね」
「……優しくなんかないって」
そう言って悲しげに微笑む深雪の頭に、俺はもう一度手を置いた。
そしてそのまま、頭を撫でる。
「そもそも番は、αにとってはΩのフェロモンにあてられないようにする為だし、Ωにとってはフリーのαを惹きつけるフェロモンを出さなくする為のものだよ?お互いに利用しあって、気持ちの繋がりのない形だけの番だっている」
「……うん」
「だけど深雪は俺のことをちゃんと考えてくれてるし、俺も深雪のことをちゃんと考えてる。それでいいんじゃないかな?」
そうだ……例え俺達がこのまま大人になって、全然別の人と結婚して家庭を作ったとしても、関係は変わらない。
「幼なじみ」という関係の繋がりと、「番」という本能的な繋がり……この二つが一緒になったところで、俺は深雪が好きだし、深雪だって俺のことを大切だと言ってくれている。
……俺は「番」という関係性を、複雑に考えすぎていたのかもしれない。
一緒にいたいからいる、お互いの好きなものに集中したいから「番」になる……俺達には、これだけで充分だったんだ。
例えそれが、大人から見れば、とても子供じみていて、自分勝手で、有り得ない選択であったとしても。
「んじゃあ、俺のうなじ噛んどく?」
「バッカ、発情期中に噛まなきゃ意味ないでしょうが!」
「ん〜……予約みたいな?」
「予約って……え!?私以外に噛ませる予定あるの!?」
「いやないない!……何!?その目!」
「……徹只でさえモテるからな……やっぱり噛んどくか……?ついでに鎖骨辺りにキスマークでもつけとく?」
「それ色々マズくない!?」
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