藤田麻衣子祭り
□この恋のストーリー
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今から思えば、初めて見た時から惹かれてたんだと思う。この違和感が恋だって、認めたくなかっただけで。
自覚した時は自分の趣味の悪さと気恥ずかしさに頭を抱えて、ベッドの上を転がり回ったものだ。
だってあの男は、自分の整った容姿を自覚していて、いつも女の子にキャーキャー言われるのが大好きなナルシストだったのだから。
でも実際顔はカッコいいし、バレーをやってる時はいつものふわふわヘラヘラが嘘みたいに真剣でストイックで努力家だし、男バレの連中と喋ってる時の年相応な顔も魅力的だし……岩泉にシバかれてる時の情けない顔や声でさえ、可愛いと思ってしまうのだから我ながら重傷だ。
恋は盲目だと言うが、あいつに……及川徹に恋をしたその日から、私は完全におかしくなった。
「及川ー、先生からプリント預かってきたよー」
職員室の前を通った時に託されたプリントを渡すと、ありがとーという台詞と共に柔らかい笑みが返ってきた。
……くそ、やっぱりカッコいい。
「……この浴衣、及川に似合いそうだね」
心が乱されたことに気づかれないように、彼が見ていた雑誌に話を移す。開かれていたページには、浴衣デートの特集が組まれていた。
……浴衣デートかぁ……及川はきっと、誰か女の子と行くんだろうなぁ……。
「そう?」
「まぁ私の個人的な好みってのもあるけど、及川はシンプルな浴衣が似合うと思う」
私がそう言うと、及川はふ〜んとだけ言ってぺらりとページを捲る。……あ、花火の写真綺麗。
「花火いいよね〜、今月あるよね?花火大会」
「うん、楽しみ。私小さい時から花火好きなんだよね」
「……じゃあさ、一緒に行こうよ」
「…………へ?」
思わず目が点になった。
「……男バレと女バレの三年で、ってこと?」
確かその日は、体育館の整備の関係で練習は午前までだ。一緒に行こうと言えば、みんな悪い顔はしないだろう。今の所全員寂しい独り身だし。←
「うんうん、二人で。デートしようよ」
「……は!?」
さっきよりも明らかに大きな驚きに、自然と声も大きくなる。
「……及川さん及川さん、マジで言ってる?」
「俺はいつでも本気だよ〜」
それは嘘だ。絶対嘘だ。冗談と本気の狭間で常に生きているくせに。
「……それとも、もう予定入ってる?」
「いや、入ってないけど……」
悲しいが、年齢=彼氏いない歴の寂しい女です。
「じゃあいいよね!とりあえず、細かいことは近くなってから決めようよ」
「……うん」
戸惑いながらも、私は彼からの誘いに了承した。
……何て、自分で言ったくせに。
「はぁ……」
及川はいつものように、女の子達と楽しそうに話している。もうすぐ花火大会だというのに、あの日以来話題にすら出さない。
胸の奥が、締め付けられるように痛い。私は彼女でも何でもないのだから、嫉妬する資格なんてないのに。
……やっぱり、私が花火が好きだって言ったから、社交辞令みたいな感じで言ったのかな?及川は、女の子にはみんな優しいから。
「……はぁ」
もう一度ため息をついて、私は窓の外へと視線を移した。
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