長編
□先生。
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はぁ、ため息が溢れる。もう面倒になっていた。
だって、雨が降っていたから。ザーザーと。
手元には、少し多めの買い物の品と、教科書等が無駄に沢山入った通学鞄。
そして、髪はずぶ濡れ。制服も濡れて透けかけている。
そこには女特有の体のラインがくっきりと露になっていた。
すれ違っていく人、特に男の視線がうざったい・・・。
『はぁ・・・・・・・。』
ため息がまた出た。
「お嬢さん、何してるんだい?」
話しかけてきたのは、知らないおっさん。見た目的に、30代ってところ。顔はまあまあ格好いいほう。
おっさんはわざとらしい笑顔と胡散臭い雰囲気を漂わせていた。
『・・・・・・雨が降っているので雨宿りをしているんですよ。
バス停は向こう側なので。生憎傘を持ち合わせてなくて・・・・』
あたしは、愛想は良い方だ。持ち前の営業スマイルで乗り切ろうとした。
「そうかい、ずいぶん沢山買ったんだね。・・・・洋服とか、結構買いだめするタイプのほうだね。」
『・・・・はい、まあ。』
まだだ、まだ笑顔を崩さない・・・・・。
「送ってあげようか?」
彼はにこやかに申し出た。
『いえ、ご心配なく。大丈夫ですから・・・。』
即断る。危ない、危なすぎるもの。だけど、彼は引かない。
「荷物、そんなに沢山で大変じゃないかい?」
にこにこと胡散臭いことこの上ない笑顔が何よりも腹が立って、我慢出来なかった。
『いたいけな高校生にあまりしつこいと、通報されてしまいますよ。』
そういうと、彼は目を見開き、前とは違った笑顔を見せた。
「そっか、君は警戒してるんだね。」
そういいながらくつくつと笑った。
そして、君は面白い子だ。とつぶやくと、彼は無理やり手を引っ張って少し大きい車の助手席にあたしを乗せた。
あたしも然程抵抗を見せなかった。何故か、とそう聞かれれば答えは単純。
自分に自信がなかったから。自分の価値を見出せていなかったから。
だからまあ、このままもしものことがあっても金だけ貰えさえすればどうでもいいと思っていた。
顔も覚えてるし、捕まえられるだろうと踏んで。
「・・・・抵抗、しないんだね。」
彼は驚きながらも笑顔でそう聞いた。
『ついていって、そういう流れになったら、お金いただきますから。
それとも、少しくらい抵抗しないと萌えないタチのひと?』
持ってるでしょう?と聞けば、彼は面白い玩具を見つけた子供のように笑顔でそうだね。と肯定した。
車のエンジンをかけて、ゆっくりと動き出す車の中でしばらくの間沈黙が流れる・・・。
「そうだ、君の名前は?」
唐突な質問だった。
『橋田 菜月です。あなたは?』
あたしがそう逆に聞いたら、すこし困った顔をした。
「私はねぇ、あんまり自分の名前そのものが嫌いなんだ。呼ばれるのも、名乗るのもなんだけどね?
・・・・・だから私のことはそうだな、
”先生”とでも、呼んでくれればいいかな?」
『あなたから教わること何も無いんですけど・・・・。』
尤もな意見を言うと、
「それなら、勉強や、その他沢山のことを君に教えてあげよう・・・。あぁ、だけど勘違いはしないでくれ、
別に保健体育のことじゃないんだ。料理や、一般常識といった、世の中生きていくために必要な知識を教えるといっているんだよ。」
あたしがきょとんとした顔で聞いていた。それに、君は賢そうだ・・・。そういってまた笑った。
言葉がでずに少しの沈黙が流れ、また彼、いや、先生は口を開く。
「君はバイトしてるかい?」
『えぇ、でないとわたしはこんなにたくさん買えませんから。』
「そうかい」
先生は、うーん・・・。となにかを考えた後に、バイト、辞めてもらおうかな、そう呟いた。
「君のバイト先はどこだい?」
『○○店ですけど・・・。』
そう答えれば、またそう・・・・といって黙った。
「君は楽してお金を稼ぎたいと思わないかい?」
その質問にあたしはもちろんと答えた。
すると先生は、少し、寄り道してもいいだろうか、と尋ねてきた。どうぞと返す。
適当なスーパーの駐車場に車を止め、どこかに電話をかけていた。
話している内容はなんとなく先生の言葉でわかった。
あたしのバイト先に、電話してる。内容は辞めるという内容だった。
なんて勝手なことを・・・・と思わず思った。
電話が終わり、先生は満足そうにこちらを向いて、
「もう今週から来なくて大丈夫になったよ。借りてた店のエプロンを返しに今週おいでだそうだ」
それからすぐに車は走り出した。
『勝手なことはしないでください。あそこで働かないと、収入がないと、わたしの生活が出来ないんですよ?』
そういえば、
「だからかわりにわたしが雇うと言っているんだよ、君の仕事の内容は至って簡単だ。
ただ、私の言うとおりにしてくれればいい・・・・・・君の考えを、学校生活を聞かせてくれるだけでいい・・・。」
言いたいことはあったが、でもなぜか言葉が出なかった・・・・。
『・・・・・はぁ。』
ため息しか出てこなかった。なんて強引すぎる男なんだこのおっさんは、と内心呆れていた。
そして内容がとても胡散臭い。とかく胡散臭いの一言につきる。
「年はいくつだい?」
彼、もとい先生は唐突に質問を投げかけた
『16ですよ?犯罪ですね。』
そうからかうように言うと、先生は驚いていた。
「驚いた、てっきり18だと思っていたよ。因みに私は26だよ。」
今度はあたしが驚いた。だって、雰囲気がかなり大人びて見えたからか、ただ単に老けて見えていたともいえるけど。
『私はそんなに老けて見えるんですかね、センセ?』
少しすねたように言えば、君は大人っぽいんだよ、肉体的にもね?
と少しちゃかしたように答えた。
その言い方、一々変態臭い虫酸が走ると思った。
(どうして自分だったのだろう、彼はどこか自分と重ねていたのだろうか。)