長編

□先生。
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家の近くまで来た。

まさか何もしないで本当に送ってくれるなんて思わなかったから、びっくりした。

『すぐそこなので、ココで大丈夫です。』

そう言って車から降りようとすると、

「いいよ、遠慮しなくて。きちんと家まで送り届けたいんだ。

オンナノコが一人こんな時間まで危ないだろう?」

と、見た目どおりの紳士的な発言だった。だけど、流石に家まで割り出されたくない、そう思っての発言だったのに。

『いえ、ここで結構です。先生、が名前を教えたくないように、私も家を教えたくないんですよ。

家、裕福じゃなく貧乏なんで。おあいこでしょ?』

そう言えば、先生はやはり君は賢いね、と呟いた。

「また、君に会いたいんだが、何か連絡先を教えてくれないだろうか?」

そう言われたので、あたしはケー番とメアドを教えた。

「また追々連絡するよ。その時はまたここで落ち合おう。」

それで満足したのか、今度はにこやかに手を振っている。

あたしは軽くお辞儀だけして車から降りた。

その時に濡れてしまうと、黒い気品漂う傘を貸してくれた。

その傘を広げ、先生が見えなくなるまで見送った。

そのまま家に向かいながら、買いすぎたな、なんて関係ないことを考えていた。

『ただいま。』

真っ暗な玄関で、誰か居るわけでもないのにそう呟いた。

カチッ・・・・・と部屋の明かりをつければ、食い散らかった部屋に、酔いつぶれて寝ている父親の姿があった。

まぁ、確かに帰ってきた時間は結構遅い。寝ていても、然程問題はない。

だがこの有様には些か苛立ちを起こさせる。

『はぁ。』

ひとつため息を漏らすと、起こさないように、食い散らかった部屋の片付けに取りかかった。

「お帰り、遅かったね、お父さん結構怒ってたよ?」

『・・・・・・うん。ごめん』

少ない会話。これが姉との会話。だけど最近ではこれが当たり前。

「お腹空いた。」

なんて、大学生にもなる女には思えない発言をした。これもうちでは当たり前。

『そう?なんで何も食べなかったの?』

そう言いながら、ある程度片付け、あたしは夕食の準備に取りかかる。

それがわかったのか、姉はあたしが今日買った服や、小物を漁り始めた。

その行為に呆れつつも、簡単で、油の少ない物を作った。

『・・・・出来たよ。さっさと自分の持ってこい。』

そう言えば、姉は漁るのをやめ、こちらに来た。

「はぁーい。」

そして、少し遅い夕食が始まる。

「そうだ、菜奈の袋の中にさ、封筒があってさ、なか見たら結構な大金入ってたよ?
一体どうしたの?」

ドキリと心臓が跳ねる。

『勝手に漁んな、人の物を。親しき仲にも礼儀ありだ。バカたれ。』

「あ、うん、ごめんごめん。」

ともまぁ、いかにも反省の色なしと言った感じだ。

それも気にならないようで、ただ出されたものを黙々と食べていた。

元々あたしは少食な方で、一杯の少量のご飯で足りる。

さっき大金が入っていたと聞いた封筒を手に取り、中を確認する。

・・・・・・・なんと、封筒の中には、20万もの大金が入っていた。

あたしは思った。あいつはバカか!!!!

女子高生に20万もの大金を易々あげるなんて…

下手したら親の給料とさして変わらない。

あたしはその中から一万取りだし、姉にあげた。理由は、そんな使わないし、姉も欲しいだろうし。

姉はきょとん顔でお金を受け取った。


(なぜ自分も、あの人を拒めなかったのか。今考えても不思議でならない)
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