長編
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熱を測っている間は、とても静かだった。彼女たちの会話は、保健室であることもあり、小さめに話しているためか、さほど気にならない。
音が鳴るまで、まだ時間があったため、その短い沈黙の中で昨日の出来事について考えていた。
普通なら、あそこで襲われてもしょうがない場面。
あのまま、その先を興味本位で望んでいた部分もあったからか、余計に昨日の出来事が頭から離れられないでいた。
考えても思い悩んでも、結果は出ているのにそれを認められずに、結果を分からず仕舞いにした。
「はぁ」
暗くなる思考を制すようにため息がこぼれた。
深くなりそうな思考は、小さい体温計の音にて一時的に忘れられた。
「あら、終わったかな?熱はどれくらいだったかしら・・・。」
保健室の先生は、生徒との会話を一時中断してこちらに視線を向けた。
私は、服から鳴り終えた体温計を取り出して、先生に渡す前に自分でも確認した。
「37.3度、か。」
微熱と言える体温。高熱の場合はそのまま帰されるが、微熱は判断が難しい。
先生は、少しの間悩んでいたが、こちらに話しかけた。
「このまま、帰る?ちょっと辛そうだし・・・。たぶん学校にいるの辛いんじゃない?」
眉間に皺が寄り、心配とそれでいいのか、わからないというのが顔に見て取れた。
「そう、ですね。今日は早退させてもらいます。」
にこり、反射的に笑った。先ほどとは違い、ひきつるまではいかなかった。
先生は少し黙ったけれど、何かあったら相談にのるからと優しい言葉をかけた。
それから、担任の先生に連絡を取るのには時間は早々かからなかった。
その間に私はベッドに横になる。
まだ使用されていないベッドはほのかにひんやりと冷たかった。
ほっと一息ついただけで、今まで辛かったのか、視界がぐわんと湾曲した。
そこで初めて自覚した。体調まで悪くなってしまっていたことに。
冷たいベッドも、少し時間がたつとホッカイロを体中に張ったような暑さになっていた。
暑い暑い、そう思っていると、担任の先生が目の前にいた。
「おい。大丈夫か。だいぶ来ない間に悪化したな。今日はもう帰れ。荷物はここにあるから」
ぼやける視界で、先生はそう言って大きいその手を私のおでこへ触れ、冷え切った先生の手の感触だけが残った。