長編

□正義と悪と
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「またじゃ。またあの悪魔どもがやりおった・・・。」

冷たく眠ったまま布団に寝かされている少女。すがるように彼女に泣きつく男は、眠った少女の父親だった。

「許せない・・・わしの子が何をしたというんだ!まだ・・・これから結婚の話もできたというのに!!」

怒りにより震える手はきつく握りしめられ、顔は憎悪に染まりながらも涙は次から次へととめどなくあふれている。

「・・・お察しします。」

大声で泣いている男の背後には、一人の女がいた。

「勇者様よ!どうか!わが娘の仇を!!」

先ほどまで眠っている娘の方を見ていた男は、勇者と呼ばれる女に深々と頭を下げた。

「貴方の無念、必ず私勇者がおたすけします!」

女もまた、男の情に流されたのか、涙を流していた。

男は、再度深々と頭を下げて、何度もありがとうございますと感謝の気持ちを絞り出すように何度も女にいうのだった。

「必ず彼女は目を覚まします。だから!信じて待っていてください!!」

涙によって潤んだ彼女の瞳は、とてもきれいで澄んでいた。





「本当に勇者になって思うけど、魔一族はひどいよ!!人を襲うなんて、本当に悪魔だよ!」


場所は変わり、先ほどの彼女は依頼の詳細説明と依頼受諾の申請をするべく、勇者が集うクエスト広場にいる。

そこから受諾専用の受付に行き、彼女は受諾申請をするのであった。

「これで受付完了です。それでは勇者様、我々が生きていくために精進くださいませ。」

受付の人は書類を受け取り、笑顔で彼女を見送った。

彼女は、まだ勇者なりたての勇者見習いである。

受理した依頼を成し遂げるために、彼女は意気込む。

「精が出るじゃねぇか。若いの。」

陽気な声がすると思い振り返るとそこには一人の少年がいた。

「君だって少年じゃないか!」

先ほどの女よりも小さいその少年もまた勇者の一人だった。

「俺はいいんだよ、お前より一つ年上だからな!!」

少年は、目の前の女、いや、少女の同期の男で名前はクルス。

背は小さいものの、成績は優秀で動きもいい。顔も良しときているので、女性からよくモテている。

また友人も多い。正直、クルスが主人公のような気さえしてくるほどだ。

「年は上でも同期じゃん!!だったら関係ないね!!」

そしてクルスに向かって怒っている少女はツツジ。身長は高いものの、どんくさい所があるので、失敗も多い。

そんなツツジは馬鹿にされたことに憤慨し、クルスに一発お見舞いしようと手を挙げる。

「っと、お前もそろそろ奴隷悪魔を貰える時期じゃねぇ?」

話を反らすように奴隷悪魔の話をする。

「あれ?もうそんな時期だっけ。クルスは早めに貰ってたよね。」

振り上げられた手の行き場を失った右手はそのままに、話は奴隷悪魔の話に移行した。

「俺はこのナンバー40003。そこそこに優秀な奴だぜ。」

大きな首鎖をつけられた幼い少女。首から鎖でつながれ、表情はない。

「しっかし。こんなにかわいいのに魔一族の悪魔なんだよな。見た目はちょっと肌が白いだけで、俺らと全く変わらねぇんだもんな。」

クルスに鎖を引かれ、力によって少女はクルスにもたれる。

「やめなよ!!同じ女としてそれは見てられないなぁ!!」

奴隷悪魔とさられているだけもあり、勇者という職業は男が多い。

「でも、こいつ道具だし。下手に同情したら食われるぞ。」

それは、生気を吸う必要はないとはいえ、生気自体は吸えるのだ。

ツツジは、魔一族だと分かっていながらも、魔一族を虐げるような今の現状をよくは思っていなかった。

「・・・・クルスは、そんな奴だとは思ってなかった。先行くね。」

不快感をぬぐえぬまま、ツツジは任務へと歩みを進める。

「ツツジ様、所長がおよびです。」

役所に勤める女性の一人が声をかける。任務に行く矢先でもあり、行くべきかどうか少し迷ったが、

すぐに行くわけではないので呼び出しを優先した。



 
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