長編
□正義と悪と
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「所長、お呼びでしょうか。」
ツツジは所長室へ向かい、椅子に座っている妖一族に声をかける。
「うむ、そろそろ貴様にも奴隷悪魔を連れて行ってもらう。」
所長命令は絶対で、従わなけれなならない。だが、奴隷という言葉が気に入らないのか、奴隷悪魔を拒もうとしていた。
「どうしても、奴隷悪魔を従えねばなりませんか。」
気乗りのしない提案、拒めないと知りながらも、念のためと聞いてみる。
「・・・お主は奴隷があまり好きじゃない様子じゃの。」
所長の目つきは鋭い。ツツジも思わず顔を伏せる。
「ふぉっふぉっふぉ!そう暗い顔をするな。奴隷と銘打てど、要はお主の相棒じゃ。仲良ぅしてやればよいのじゃ。」
先ほどまで鋭い目つきをしていた所長の顔は、気さくな優しい笑顔に変わっていた。
「は、はい!!」
奴隷の扱いでなくてもいいということがわかり、ツツジも笑顔になる。
「それでは、健闘を祈る。」
腕を組み、最後は凛々しい顔でツツジが部屋を出るのを見送った。
ツツジが部屋から出た後、所長は別の人間に話しかける。
「おい。」
声を掛けられた男は側に駆け付ける。
「ツツジには、あいつを与えよ。・・・死体は回収するのだぞ。絶対に魔の手に渡してはならぬ。」
優しい所長の顔は、殺気だった狩る立場の人間の顔つきだった。
男は頭を下げ、所長室から立ち去った。
「貴方の奴隷悪魔、ナンバーラスト。これからコレがあなたの奴隷になります。」
奴隷保管所に向かい、番号ではなく「ラスト」と名付けられた奴隷悪魔。
クルスと一緒にいた奴隷悪魔よりも一回りも大きな鉄首輪にたくさんの赤い札を張られた髪の長い少年がいた。
あまりに綺麗な少年のせいか、思わず見とれる。
「それでは、勇者様、わたくしたちをお救いくださいませ。」
声を掛けられ、ようやく視線を反らせる。相棒という立場で接するべく、ツツジは目の前の悪魔に声をかけた。
「えっと、ツツジです!!君の名前は?」
緊張しながらも親睦を深めようと手を差し出した。
悪魔の少年はじっとツツジを見つめ、口を開く。
「お前は馬鹿か。」
親睦を深めるべく取った行動は実ることなく、たった一言で終わってしまった。
「へ?」
奴隷悪魔はあまり話さない上、従順なイメージだったので、唐突な暴言に面を食らってしまう。
「お前は馬鹿かと言ったんだ。名前など、知る必要はないだろう。」
彼の暴言は、聞き間違いではなかった。
「なっ!!君!初対面のお姉さんにそんなこと言わなくたって!!」
不思議と気品溢れる少年は、こちらを見ることもなく視線を反らせたまま。
だが、側にいた女性は憎悪の感情を吐き出すようにその少年を見る。
「身分を弁えなさい、奴隷風情が。」
役所の人は、感情の凹凸がないと思っていたのだが、この人は何故かこの少年に嫌悪をという嫌悪、憎悪という憎悪をむき出しにしていた。
魔一族にうらみがあるのか、その少年に恨みがあるのか、ツツジの頭は混乱して固まっている。
動けないでいるツツジの姿が見えていないのか、その女性は鎖を地面に叩きつけ、反動で少年も地面に倒れこんでしまう。
女性はそのまま手に持っている鞭で少年を叩こうと手を振り上げる。
だが、その攻撃が少年の身に振り下ろされることは、なかった。
パシン!!
だが、振り下ろされた手は止まらず、かばうように前にでたツツジの頬に当たる。
「いった、」
ツツジの行動を予期していなかったのか、受付の女性と奴隷悪魔の少年は驚いている。
「きっ、貴様は何をしている!!」
静まり返ったその状態から最初に口を開いたのは、悪魔の少年だった。
「え?ほら、悪くないのに叩かれるのってやじゃない?止めるつもりがぶたれるという格好悪い結果になってしまった・・・。」
あはは、と苦笑交じりに笑うツツジ。悪魔の少年は、呆れてそのまま黙ってしまった。
「ゆ、勇者様に、手をっ・・・・!」
手を挙げた女性は狼狽えだし自分を抱きしめ震えだす。
「あ、勇者に手をあげたらダメなんだっけ?いや!違うよ!!これは不可抗力のようなもので!お姉さんは悪くないよ!!ほら!!叩かれてない!!ごめんなさい!!」