APH

□家族の
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小さい頃から俺のことを一人で育ててくれた

俺の世界は彼だけで俺の一番の理解者で、一番愛してくれた

けれどその愛情が歪んでいった

何故?




広いどこまでも続く荒野

まだ海も知らない俺は一人自然と共に生きた

日に日に自分の意味がわかってきた

それとともに様々な感情を持つようになった

一番初めに生まれたのは"寂しい"

荒野に一人

周りは永遠と続く木々

動物達にも家族があり親や兄弟と"家"へと帰っていく

それに気づいてから毎日泣いていた

涙も乾いたある日、自分以外の人に出会った

一人は食べ物をくれた

もう一人は泣いていた

何故泣いているの?君も俺と同じ一人なの?そう思ったとたん、彼に触れたくてたまらなくなった

毎日食うか食われるかの野生生活においては食べ物の方がすごく魅力的に感じたはずなのに、俺はそれよりも一人を埋めてくれるそんな気がした彼を選んだのだ

それから彼は俺が寂しくならないようにと沢山の物を与えてくれた

たまの休日には必ず来てくれた

日帰りだってしてくれた

俺は彼が大好きで彼も俺に沢山の愛情を注いでくれた

長年憧れた”家族”、”家”

毎日が楽しかった

彼の作ってくれたこの家で彼の作ってくれたこのおもちゃで遊びながら彼を待つ日々が

でも、ある日を境に彼は変わってしまった

あの日、彼のブーツが庭のアスファルトを踏む音がして、俺は彼が来てくれた嬉しさに少し悪戯をしたくなった

隠れて脅かしてやろう

俺は慌てて物置部屋に隠れ、戸の隙間から除きながら彼が入ってくるのを待った

しばらくして予想通りの彼が入って来た

しかし、いつもと雰囲気が違う

(怖い……)

赤い軍服に身を包んだ彼はひどくやつれていた

その赤が血だと錯覚してしまう

彼は真っすぐリビングへ向かった

俺を探してるんだ

だが、先程とは打って変わり出て行く勇気がでなかった

(怖い…)

こんなこと思ったこともなかった彼が怖いなんて

俺を探す彼の足音が近づいてくる

まるでこれから食べられる野うさぎの気分だ

ドアノブに手をかけ、ゆっくりと噛み合わせの悪くなった扉を開く

キィー

耳を塞いでしまいたいくらい不快な音が真っ暗な物置部屋に響く

”見つかった”

見つけてほしくて始めたかくれんぼ

でも、今は見つかってしまった恐怖

静かに俺を見据える彼のグリーンアイズはひどく冷たく感じた

何か、何かいわなきゃ

「」

言葉が出る前に首筋に冷たさを感じた

彼の手から伸びた剣が俺の首筋に宛がわれていた

何、何がおきたの?彼は、誰?

「お前はいつか……」

それから彼はなんて言ったっけ?




「やっぱり俺、自由を選ぶよ」

「…」

「もう子供でもないし、君の弟でもない。たった今、俺は君から独立する」




「よぉ、たまには飲みに行かねえか?」

彼が変わってしまったあの日から数年後独立した

彼は俺との別れ、平穏な日々の終末を恐れていた

そのため、俺を閉じ込めた

愛という鎖で縛った

束縛から逃れ、やっと掴んだ自由

その時に見せた彼の涙は初めて出会った時を思い出させ、胸を苦しめた

それから数百年たった今、こうして酒に付き合わされるくらいになった

長かった

あの束縛から逃れたことには後悔はしていない

でも、彼のあの時の涙だけは俺を縛ったままだった

その鎖が外れていく気分だ

隣には既にワインを三本も空けていた彼が泣きながら一人で何か言っている

「…アル」

!!

あの日ぶりだろうか、人名で呼ばれたのは

なんだか目頭が熱くなった

彼は何年経ってもやはり自分にとって大切な存在だった

自分にいろんなものを与えてくれた大切な家族

あの頃を初めて、良い思い出だったと思えた

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