無双シリーズ

□幽愁暗恨
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ただ、彼を…《西涼の死神》を討ち果たすため。
私は彼と戦場で巡り会う事を求めて、求めて、ひたすら求めた。愛憎と言う言葉がある様に、その想いは恋慕にも似ているのかもしれない。
会うこと、討ち果たすことを想うとこんなにも胸が締め付けられるのだから。

――――――――――……

身を切るような冷たい風が頬を撫でる戦場で、ずっと求めてきた相手を探す。
辺りは見渡す限りの白銀に満たされている。反射する白い陽光は、復讐だけで動いている私には眩しすぎる。
風の如く空間を裂き、木々の間をひたすらにと駆け抜ける。誰も踏み入れてない新雪に、私の足跡を次々と刻みつけていく。
雪の冷たさに徐々に足の感覚がなくなって行くものの、それはあまり気にならなかった。
ほぼ感情だけで動いている、私の足はただ求めている者の元へ。

一人で陣を走り抜いていく事の危険さ、そんなモノは考えずともわかっている。
けれどこの激情を止める術は、私は知らない。

「…っは、…。」

弾んだ息を整える為に木に寄りかかり、少しの間休息を取る。
その間に万が一のために一人だけ付けていた側近を、伝令係として行かせる。
そう、あの男の場所までもう少しなのだ。
この時をどれほど待ち焦がれたか…!

ざくり、と雪を踏みしめる音が聞こえる。伝令は今行かせたばかり。こんな早く戻るはずはない。
なら、この足音は…?

「君、こんなところで何してるの?」

ふいに、後ろから話かけられる。
反射的に振り向き、筆架叉を相手の喉下へ突きつける様に切り上げる。
しかし予測されていたのか、簡単に避けられる。
そしてその相手、私が見間違うことはない。

「…っ馬、岱。」

完全に油断していた。筆架叉を握る手に力が篭る。
でも、相手も一人。馬一族の馬岱。こんなに近くにいたのに後ろを取られるなんて、不覚。

「若を追いかけてきたのかな。」

「黙れ、貴様も私の仇。馴れ合うつもりは無いわ。」

筆架叉を、予備動作無しで切りつける。二擊、三擊と容赦なく攻撃を入れていく。
それを難なく馬岱は受け流し、押し戻される。認めたくなくても、強い。

「黙ってたら綺麗な顔してるのにね。性格変えて、若に取り入るっていうのはどう?」

「ふざけないで。貴方こそ、その性格改めたら?」

この軽口を叩く男はいつも私を苛つかせる。感情に任せてどんどん攻撃を重ねていく。
前線から遠いこの場所には、武器がぶつかり合う鈍い音が響く。
それでも私の攻撃を全て受け流す。それも、楽しそうに。本当に、苛つかせる。

「たまには本気を出したらどうかしら?」

「それ、俺の台詞。君いつも手加減してるよね。」

「戯言はもういいわ。どいて!」

単調な攻撃をやめて、筆架叉を逆袈裟斬りに振り抜く。

「うわっと!ちょっと、いきなり本気出すの無しでしょー。」

突然の攻撃の変化に馬岱は後ろに飛び退いて応戦する。
振り抜いた力をそのまま流して、身を反転しながら再び切りつける。

「私は貴方じゃなくて馬超に会いに来たの。貴方との戯れはここまでよ。」

「あのねぇ、俺だって…。まぁいいか。君、長生きしないよ。」

二擊目も馬岱は避けると、今までの守りの体勢をやめて攻めに転じる。
突然の攻撃に、降りかかる妖筆を筆架叉を交差して防ぐ。

「女の子なのにやるねぇ。」

「だから、そう言う口は…っ」

渾身の力を込めて、斜めに受け流し鍔迫り合いを解く。
その勢いを殺さずに踏み込んで、馬岱へ回し蹴り、その流れで後ろ回し蹴りを入れる。
まさか肉弾戦に持ち込まれると思わなかったのか、彼は諸に攻撃を受けてよろめく。

「いててて…っ。いきなり蹴り入れるなんてひどいよ!」

「泣き言いう暇あったら、自分の身の安全を確保するのね。」

私は彼に微笑んだ。先程から聞こえる足音は、恐らく私の呼んだ兵たちがきたのであろう。
そうして直ぐ、私の配下たちが駆けつけてあっという間に彼を取り巻く。
それを横目で確認した後に、私は再び走る。こんなところで私兵を使うつもりはなかったので、今度は本当に一人で挑むこととなる。
今度こそ…馬超と。でもそこまで一人でたどり着けるのか…。
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