DFF

□落とされた谷底は、花畑でした。
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この異世界での戦いは、己に科された試練のようなものだと思っていた。
仲間同士で励まし合い、お互いを高め合い、己の敵…ひいては己の宿敵に立ち向かう。
団体行動を苦手とするスコールでも、仲間たちのことは信頼も、尊敬もしていた。
そして今日も昨日までと同様、カオス勢との戦いが始まるー……と、思われた。

「スコール」

この人の前だと、自然に背筋が伸びる。
常に正しくて、妥協を許さない、まぶしいヤツ。………なのだが。

「今日の戦いだが、お前は休んでいいぞ。」
「…………は?」
「今日は私と勇者の在り方について剣を通して語り合おうじゃないか。」
「……はああ!?」

意味が分からない。一刻も早く、カオス勢を倒さねばならないというのに。

「さ、スコール。」

腕を掴まれ、ぐいぐいと引っ張られる。
ウォーリアの顔は至って真顔だ。
いや、いつもと変わらないのだが、それがより一層怖い。

「……い、いい。遠慮しておく。」
「…………………そうか。残念だ。」

間が怖い。間が。

(……これは怒っているのか!?)

無表情故に、怖い。今度から自分も少しは感情を顔に出そう。

「あっずるいぞ、ウォーリア。抜け駆けか?」

今度はフリオニールだ。
仲間想いで、夢に向かって走る、少しお節介な青年。
フリオニールの登場に、スコールは内心助かったと思ったのだが。

「スコール!スコールは、その、野薔薇は好きか?」

………………は?
ただフリオニールはあくまで好青年の笑みを向けてくる。

「…………別に、嫌いじゃない…」

野薔薇なんて意識して見たことなんてないし、正直スコールにとってどうでも良いことであった。

「そうか………、じゃあ、何か好きな花はあるか?」

いや、別に。
そう答えるとフリオニールはしゅんとしてしまったので、好きな花はないけど嫌いな花もない、と答えたら、フリオニールはまた人の良い笑顔を浮かべてスコールは優しいな、と肩に手を置いた。

「じゃあ今日は、スコールと将来の夢について語ろ……」
「それはいい。」

じゃ、と踵を返すとすぐに朝食の準備をしていたティナとオニオンナイトに会った。
「スコール、朝ご飯、出来たよ」
「今日は僕とティナが作ったんだ!」

食べて食べて、と進められた朝食は明らかにいつもより量が多い。

「こんなに食べられない……」
「駄目だよスコール、ちゃんと食べないと。」
「そうだよスコール。せっかく作ったんだから食べてよ!」
「…………………。」

ティナの期待に目を輝かせた瞳と、有無を言わせないオニオンナイトの威圧感に押され、スコールは黙って普段なら有り得ない量の朝食を食べた。







*********






(…………気持ち悪い…)

スコールとて、食が細いわけではない。
むしろ見た目より食べるほうだが、それでもあの量を食べるのはきつかった。
そして何より、やたら勧めてくるおかわりを断るほうが大変だった。

(…………なんか今日はみんな変だ…)

今日はちょっとみんなから距離をとろう。なんか悪い気もするが、元々は1人で行動してたわけだし。
こう思った矢先。

「おーいスコール!こんなとこにいたのか!」
「探したんだぞ、スコール!」

バッツとジタンだ。
コイツらは何かと絡んでくる。
最初は鬱陶しいと思っていたが、今となっては一緒に居るのが一番長いのもコイツらだったりする。

「みんなして今日はどうしたんだ……」

決して迷惑だと思っているわけではないが、こうみんなして様子がおかしいと、窺い知りたくもなる。

「あれ?スコール、今日何の日か……」
「バッツ!今言うようじゃ野暮ってもんだぜ。」

……………?
何を言ってるんだコイツらは。
しばらく黙っていると、バッツとジタンはくるりとこちらを向いて、両手を広げる。

「さあスコール!」

バッツがにこやかに言い、ジタンもそれに続く。

「今日は俺たちに甘えていいぞ!」

「……………………帰る。」
「ちょっ、スコール、そりゃないだろ!」「たまには年上に甘えろよ〜」

バッツが無理やりスコールの頭を抱えてグリグリと頬を頭に擦りつけてくる。
ジタンはジタンで「今日はレディ扱いしてやるぜ、スコール」なんて言ってる。

何度も言うが、決して嫌な訳ではない。
ただどうすればいいのか分からないのだ。
(こういう時、どうすればいいんだ…?)

ここはありがとう、なのか?
なんだか微妙に違う気もするが。

「…………今日はウォーリアもフリオニールも、ティナもオニオンも、変だ……」

ボソッと愚痴を零したら、バッツが食いついてきた。

「そいつらは、なにしたんだ?」
「……ウォーリアは、勇者について語るとか、フリオは野薔薇がどうのとか……。ティナとオニオンは、鬼畜な量の朝食食わされた……。」

スコールがそう言うと、バッツとジタンは
ぷっ、と吹き出して大笑いし始めた。

「あっはははは!!フリオが野薔薇とか、期待裏切らねえやつぅ〜!!」
「俺はウォーリアのが気になるな」
「やべ、俺ウォーリアに真顔でそれ言われたら断れないかも。」

確かに〜と2人は笑いあっている。
そういえばバッツがさっき言っていた、今日が何の日なのかが気になる。
それが分かればみんなが変な理由も分かるのかもしれない。

「ま、今日はスコールがみんなに甘えていい日って事だ」
「そうそう!」
「……って事で、お風呂にする?ご飯にする?それとも…お・れ?」
「ヒュ〜!バッツ大胆!」
「…………ご飯はさっき食ったからいい。」
「…冷静なツッコミだな、スコール……。じゃあ、俺にする?スコー……」

ジタンがスコールの腰に手を回してきた、その時。

「…………甘いッ!!!」

男らしい声が響く。3人はびっくりしてその声の元を辿ると…………。

「2人とも甘すぎるぞ」

腕を組んだ仁王立ちのクラウド(蜂蜜の館装備中)が圧倒的な存在感を放っていた。

「いつからそこに……」
「綺麗なお兄さんは、好きですか」
「……は?」
「綺麗なお兄さんは好きかと聞いている」
「意味が分からな……」
「お前はただ頷いていればいい」

女装したクラウドは、それはもう美しい。美しいだけに、じっと見られると威圧感がある。

「もう一度聞く。綺麗なお兄さんは好きですか」

色々いいたいことはある。
まず綺麗なお兄さんってなんだ。
なぜ意味もなく女装してるんだ。
そして俺に同意を求めるな。
しかし。

「……返・事・は?」
「………………………はい」

クラウドは何を考えてるかよく分からなくて、ちょっと怖い。特に女装した時のクラウドはすごく怖い。
ごく小さな声で返事をしたスコールに、にっこりと微笑みかけ、べりべりとバッツとジタンを引き剥がす。
2人は「あ〜れ〜」なんて間抜けな声を出している。

「さあスコール。今日はお前の好きなことしていいぞ。」
「…………ぶッ!」

バッツが吹いている。
クラウドはそれに構わず腕をスコールの首に回し、足を絡める。

「………好きなことってなんだ……」

スコールは半ば呆れた声を出すが、クラウドは、ぐいと顔を近づけて耳もとで囁く。

「ア・ン・タ・の・好・き・な・コ・ト」
「………………遠慮しておく。」
「なんだ、面白味のない。」

せっかく着替えたのに、と不満を洩らすクラウドに
「はい!はいはい!綺麗なお兄さん好きです!」と立候補するバッツとジタンを尻目にクラウドはさっさとどこかへ消えていった。

「……………本当に今日はなんなんだ…………。」

スコールはまたひとつ大きな溜め息をついた。










*********









テントに着くなり、ティーダが思いっきり抱きついてきた。

「今日は俺がスコールに甘える日っス!」

なんだかもう全く状況が分からないが、スコールは(精神的に)疲れ果てたので、ティーダにされるがままになっている。

「スコールってばまた老けた?そんなに額にシワよせてちゃ、もっと老けるっスよ!」

余計なお世話だ。
いい加減今日が一体何の日か教えてくれ………。
するとフリオニールがそろそろ教えてあげてもいいんじゃないか?と言う。
ウォーリアがそれに頷いて、ティナとオニオンも「そうだね」と笑いあう。
バッツとジタンは「スコール、最後まで気付かないんだもんなあ。」「俺たちのサービスが足りなかったのかな?」なんて言って、クラウドは未だ蜂蜜装備で「まだ遅くないぞ。」と両手を広げている。
ティーダはぎゅ、とスコールに抱きついたまま、「せーの!」と大きな声で言った。

「「「スコール、誕生日おめでとう!!」」」

…………え。ええ??

「コスモスが教えてくれたんだ。今日はスコールの世界で、8月23日だって。」
「みんなでスコールを祝おうとしたんだが…あまり気に召さなかったようだな」

じゃあ今日1日、みんなの様子がおかしかったのは…………、

「俺への、誕生日プレゼント…?」

皆が一斉に頷く。
もう我慢出来なくなって、スコールは吹き出した。

「……くっくく…!あれが誕生日プレゼントとか、みんなどんだけなんだよ…!」

でも、嫌いじゃない。
スコールは自然と顔が緩むのを感じながら、

「みんな、ありがとう」

と言った。








翌日。

「スコール、誕生日おめでとう」
「セシル」
「昨日祝ってあげれなくてごめんね。はいこれ、プレゼント。」

そういって手渡されたのは、ゴルベーザの………

「兄さんの人形なんだ。ほら、手足が動くんだよ。これ作ってたら昨日おめでとう言いそびれちゃって」
「…………………そうか。ありがとう」








セシルのプレゼントが一番いらないと思ったのは、スコールだけじゃないらしい。








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