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□苦しげな華
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丕「起きろ。罪人。」
いつもとは違う凛とした声に私は重い瞼をゆっくりと上げた。
牢の外に立つソイツは昨日まで来ていた兵士ではなく、敵国の皇子と瓜二つの顔をした男だった。
「…何か用…?一応言っておくけど…話す事は何もないから…。」
喋る度に殴られた場所が痛み、切れた口許がヒリヒリして喋りにくかった。
男を見上げるように見ると、男はさっきまでの無表情が消え去り笑みを浮かべていた。
丕「…ほぅ…痛みを覚えても母国の事を喋るつもりはないとは……痛みが好きなのか?」
「…そういうアンタは性格が歪んでるわね。手足を縛った上に逃げられないように足の腱まで切って、ろくな食事も取らせない。これが魏のやり方か。最低ね。」
丕「ならば知っている事を話せば良い。何故敵国である魏に自分を偽り城に入ったのか。誰の差し金なのか。全て話せば良い。」
「…全て話した所で何になる。どうせ殺されるんだろ。」
私が言うと男はそれ以上何も言わなくなった。
図星か?
そう思っていると、堅く閉ざされていた牢の扉が突然開かれた。
そして、何も言わずに男が入ってきた。
何をする気だ?
「…ッ!!」
頭に痛みが走った。突然の事で最初は分からなかったけど、少ししてから分かった。
今、私は男に踏まれているのだ。
男は情けというのを知らないらしい。
全体重を足を通じて私の頭を踏んでいるのだ。
痛い。
手が使えたら……!
丕「生意気な小娘だ。私にそのような口答えをするとはな…。よほどの身の程知らずらしい。」
「ッ………、」
悔しい。けれどそれ以上に怒りが私の中で煮え切りそうになっていた。
手が使えたら…アンタを押し倒してその細い首に手をかけて殺してやるのに……!
丕「…踏まれても命乞いはしないか…。」
「………ッ…殺してやる…アンタなんか…。」
丕「…私を殺す…か。ククッ…面白い。面白いぞ、小娘。」
何がおかしいのか全く分からない。
男はしばらく私を面白そうに見てから、私の頭から足をどけ身を翻して牢から出ていった。
牢を出る間際、男は小さく私に呟いた。
丕「暇潰しが出来た。次来る時まで死ぬなよ、小娘。」
遊んでやる。
そう聞こえたような気がした。
苦しげな華
苦しげな華を見つける瞳は酷く冷たくて酷く楽しげだった。
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