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□伝染
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「今日もよろしくお願いします!」
いつもの昼下がり。
私は愛用の武器である槍を構えて、目の前にいる陸遜さんに向かって言い放った。
陸遜さんは楽しそうに微笑みながら腰から剣を抜き、構えた。
陸「こちらこそよろしくお願いします。手加減無用ですよ?」
「はい!」
じりじりと間合いを取り、陸遜さんと対峙する。
冷たい北風が吹き抜ける中、私は一気に前に出た。
こうやって武器を交えての鍛練は…私が陸遜さんの配下に入ってからだろうか。
外で一人鍛練をしていると「私と一つお手合わせ願いませんか。」と言ってきたのが陸遜さんだった。
一回だけだと思っていた陸遜さんとの鍛練も、今は一日の日課になっていた。
初めて武器を交えたのが花が咲き乱れる春だったから……白い息が出る程寒くなった今の季節を考えると結構長い間この鍛練をしている。
陸「甘い!」
突きをいれた槍は陸遜さんの剣で流され、私と陸遜さんの間合いが一気に縮まった。
「くっ!」
懐が空いてしまった。このままでは…やられる!!
私は向きを変え、急いで槍を持ち直そうとした。
が、いきなり手の感覚がなくなり、
「え?」
スルリと槍が手からすり抜け、カランと音をたてて落ちた。
陸「どうかしましたか?」
私の様子を見た陸遜さんは動きを止め私の槍を拾いあげた。
「あ、すみません。」
陸「いいですよ。それよりも……いきなり武器を落とすなんて……どこか怪我でもしましたか?」
「いえ……なんか急に手の感覚がなくなって……、」
陸「手の感覚がなくなる?…ちょっと見して下さい。」
グイッと手を掴まれ引っ張られた。
結構強い力で引っ張られたのに感覚がないせいか何も感じられなかった。
陸「…真っ赤ですね…。きっと寒さで感覚がなくなったんでしょうね。」
…言われてみれば陸遜さんの手が異常に熱い。
きっと私の手が異常に冷たいからだろう。
陸「冷たい手だ…。大丈夫ですか?」
「あ、はい。陸遜さんが握ってくれてるおかげか感覚が戻ってきたかも…。」
じんわりと陸遜さんの手の温かさが伝わってきて、何も感じられなかった感覚も少しずつではあるものの戻ってきた。
陸「そうですか。…ならもう少しこのままでいましょうか。」
「え。あ、いや!いいです!」
陸「嫌でしたか?」
「いいえ!全然!いやあの…このまま握ってたら陸遜さんの手が冷たくなります!」
私が言うと陸遜さんは微笑みながら更に私の手を強く、けれど優しく握った。
陸「大丈夫ですよ。むしろ貴女の手の体温が心地良い位です。」
「そ、そうですか?」
陸「はい。…伝染して下さい。」
伝染?
「それは…どういう意味ですか?」
訊くと陸遜さんはまた微笑んで、耳元で小さく囁いた。
陸「貴女の手から“伝”えて、私を貴女で“染”まらせて下さい。」
伝染
――この瞬間、私は貴方に伝染した。
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