忍ぶ恋夢
□玖
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私が最初に雷蔵の顔を選んだわけで、特に真琴からの先導などはなかったなと思い出した。
『一応素顔は隠しておいて損はないんじゃない?』
(それもそうだな)
忍術学園への入学にともない、私と真琴は穏やかな春風に吹かれながら山道を歩いていた。
幼い新入生とは言えすでに「鉢屋」の名の意味を知り、拙いながらも変装の術を使いはじめていた私は
真琴からの助言もあり、将来的のことも考えて素顔を隠していくことを決心した。
そうと決まればどうするか。いったい誰の顔を借りようかと頭の中で知っている顔を次々に思い浮かべた。
『鉢屋の人は駄目だよー?』
(そうなると道すがらすれ違った奴からか?)
『うーん、そうだねぇ。三郎が気に入った顔でいいんじゃない?あと勝手に顔を借りても怒らない人?』
(重要な項目だなそこは。まずふんどし姿になっても怒らない広い心の持ち主を見極めよう)
『何故そこにこだわる』
で、そんなことを考えて考えて考えまくっていた私たちの目の前に現れたのが
忍術学園に入ろうか入るまいか門前でウロウロと悩み悩みまくりの不破雷蔵である。
(よし、アイツにしよう)
『早ッ!?いいのそんなんで!もっと考えようぜ兄弟!』
(考えまくった結果、飽きた)
『そォォォォいッ!!』
早速門前で困った顔で悩むソイツの顔を借り、何食わぬ顔で声をかけてやったのだが。
自分と同じ顔をした奴が急に声をかけてきたものだから凄まじく混乱したのか悩んでいたことも忘れて俺の後を追いかけて門をくぐってきた。
その時の一言は、今でも忘れられない。
『僕の悩み癖からまさかの分身が!?とか笑わせてもらったよねぇ』
(どっちか悩んでる奴が増えてもまたその分身も悩みだすと思うが)
『そんでまた悩んで分身してまた悩んで分身してエンドレスサマーナイト!雷蔵君ハーレムですか!』
あの日から私たちは隣り合うようになり、兵助や八、勘ちゃんも含めて五年の間に目には見えぬが強い絆と言うものを育んできたつもりだったのだが。
今、私の隣には誰もいない。
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