忍ぶ恋夢
□拾
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廊下からふと何気なく庭に目を向けた瞬間、珍しいものを見つけた。
金にがめつい銭の亡者と呼ばれるあの一年生が、何もせずただ昼寝をしている光景だ。
アイツ、きり丸は暇さえあればやれアルバイトだ、それ小銭数えだ、といつも忙しそうに動き回っているはず。
それなのに今はいつもの友人二人と共に学園の庭、日当たりのよい草の上で寝転んでいるのだ。
『今日はお休みかな?』
(かもしれないな)
『とりあえずからかっておく?』
(とりあえずそうしよう)
あの三人は特に反応が面白く、私たちの恰好の遊び相手でもあるので挨拶代わりにからかいに行こうと忍び寄っていく。
もちろん顔はお気に入りのしんべえに変えて。
「よお、お前たち。日向ぼっこか?」
「ぶっ!」
「へ、変装の名人、五年生の鉢屋三郎先輩ッ!?」
「説明ご苦労」
やはりと言っても良いほど三人は面白く驚いてくれてその場から飛び起きてくれた。
最近の荒んだ心の私には以前と変わらぬこの反応が嬉しくてどこかホッとしてしまった。
『にひひひ、可愛いなあ一年生は!庄ちゃんもこれぐらい驚いてくんないものかね!』
(うむ、庄左ヱ門は私たちの最大の好敵手ではあるな)
「ところできり丸、今日はアルバイトは休みなのか?」
「それより鉢屋先輩、しんべえの顔でその頭身はやめてください〜」
「スマンスマン。私は変装の名人ではあるが体格までは変えられないと言う欠点があるものでな」
「説明、ご苦労様です」
一通りの流れを終えたところで基本である雷蔵の顔に手早く戻し、それでと質問を再びきり丸にふり直した。
しかし、返ってきたのは
あまりにも、ひどすぎる答え。
「つぐみさんがアルバイトばっかしてたら勉強も大変だろうし遊べやしないって学園長に掛け合ってくださったんスよ!奨学金制度って言って後で金を払う未来のすっげーいい制度を立ててくれたし、アルバイトも学園内での事務員の雑用とか作ってくれて時間に余裕が出来たんです!」
「私たちはきり丸とたくさん遊べるし、それに夜遅くまで小銭を数えられなくなるし万々歳です!」
「なんだよ〜、うるさいのはしんべえの歯ぎしりじゃんか〜」
「乱太郎のイビキだって時々うるさいよー」
じゃれあう可愛い後輩たち。
だが、私たちはかける言葉も忘れて驚愕に目を見開いていた。
目玉を持たない真琴すら、だ。
きり丸、お前は今何と言ったのだ?
『・・・最悪だ』
そう、最悪な展開だ。
私たちは喜んでいる後輩たちを見ながら共に、その後輩たちが持つべき大事なものが失っていく事実に
恐怖を覚えていたのだった。
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