忍ぶ恋夢

□拾九
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本当にどうしようも無い時に、私には手を差し伸べてくれる友がいた。

ソイツらは今、私の隣にはいない。
みんな天女様の所へ行ってしまった。


苦しくて、悲しくて。
私は一度、彼らを諦めてしまった。




だが、諦めるなと、手を伸ばせと叱咤された。
だから、諦めたくないと声無き叫びを内に向けた。



『三郎!』



だから!私は!




今起きている奇跡に両手を上げて叫びたい!


「……何をなさっていらっしゃるのですか?先輩方」


目の前にあるのは私と同じ、紫苑の背中。


「なっ!そこを退け!」


長く量の多い、干し草のような懐かしい髪に、目頭が熱くなってくる。



「何をなさっていらっしゃるのかを伺っているのです、答えてください先輩」


怒りを露わに武器を構える六年生達に、隣にいたきり丸の小さな体は震える。
私の服を強く、強く握りしめて怯えている。


「武器をお下げください先輩方。でなければ、僕たちも応戦せざるをえません」

「ほお?お前たちが我々の相手になるとでも?」


立花先輩の嘲りを含む見下した言い方に真琴が『イヤな言い方』と一言呟くと、ソイツはゆっくりと首を振りしっかりと答えた。


「相手にはならないと思います。ですが、僕たちが傷つけば優しい天女様は必ず僕たちの心配をして先輩方を責めるでしょう」

「チッ!」

「なるほどな、確かに彼女に嫌われるのは本意ではない。だがお前たちが彼女を利用すると言うのは気に食わん」


ピシッと固まる空気にきり丸の喉が小さく鳴った。




駄目だ、このままではこの子が壊れてしまう。

幼子を安心させてやるようにその体を片腕で抱きしめてやり、早く、早くと願いを込めて祈る真琴の声に続くよう唇を噛み締める。


「引いてはくれませんか?」

「……いや、お前の卑しさに免じて引いてやろう」

「仙蔵!」


怒鳴る潮江先輩方など気にも止めず微笑むと、他二人を促して立花先輩は腰を上げる。


「これで貸し一つと手を打ってやろう。お前たちがまた彼女を悲しませるようなら、次は無いと思え」

「……ありがとうございます」


部屋を立ち去る時に軽蔑を含めた目で睨む私を立花先輩は鼻で笑い、そして残り二人もよくわからぬ捨て台詞を私たちへと吐きようやく部屋を出て行った。







残されたのは鼻をすするぐずった声と、重い沈黙。

向けられたままの背中は、かすかに震えている。

……お前も怖いんだな。



『……三郎、大丈夫?』



(……ああ、大丈夫だ)

(大丈夫、覚悟は出来ている)

(だから)



「雷蔵」



(話をしよう)

(あの日から、今日までの)

(それから)



「『ありがとう』」



今、この場に来てくれて。


二人揃えて言葉をかけると、鼻をすする音がもう一つ増えて私たちは声もなく笑うのだった。


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