小説
□君思う心は、まるで弾ける泡の如く
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けれど、その様な生活の中でも、彼を嫌いになることが出来なかった。
愚かだと、思った。
振り向いてなどくれないと分かっているのに、それでも希望を捨てきれない自分が。
お母様が言うには、彼は私との婚約を快諾して下さったという。
もしかしたら…という気持ちを、どうしても拭いきれなかった。
私は彼を想い続けた。
どうすれば彼は私を見てくれるのか。
最近はそればかりが毎日頭の中で回っていた。
「どこかへ、行かれるのですか?」
部屋を出て、玄関で靴を履く彼の後ろに立ち、答えなど分かりきった問を問う。
少し震えていたかもしれない声に、彼の背が少し反応を見せた。
「君には関係の無いことだ。
夜は冷える。早く部屋に戻るといい。」
ただ淡々と言葉を紡ぐ声に、胸元で握られていた手に力がこもる。
「何、故…」
「まだなにか?
僕は急いでいるんだ。」
声から、少し苛立ちが見てとれた。
いつもならそこで、引き下がっていたはずだった。
けれども、何故だろう。
今まで溜まってきた何かが、言葉が、溢れてきた。
涙が頬を伝うのが分かる。
「貴方は…どうして、私を見てはくれないのですか?
愛してはくれないのですか?
私は貴方を、こんなにも愛しているのに…
それに、私との婚約を快諾してくれたのではなかったのですか?」
「何故、僕が貴女を?」
私の言葉に、冷たく嘲笑うかのように返された声音に思わず目を見開き、背を見つめる。