小説

□君思う心は、まるで弾ける泡の如く
2ページ/7ページ


けれど、その様な生活の中でも、彼を嫌いになることが出来なかった。
愚かだと、思った。
振り向いてなどくれないと分かっているのに、それでも希望を捨てきれない自分が。
お母様が言うには、彼は私との婚約を快諾して下さったという。
もしかしたら…という気持ちを、どうしても拭いきれなかった。

私は彼を想い続けた。
どうすれば彼は私を見てくれるのか。
最近はそればかりが毎日頭の中で回っていた。


「どこかへ、行かれるのですか?」


部屋を出て、玄関で靴を履く彼の後ろに立ち、答えなど分かりきった問を問う。
少し震えていたかもしれない声に、彼の背が少し反応を見せた。


「君には関係の無いことだ。
夜は冷える。早く部屋に戻るといい。」


ただ淡々と言葉を紡ぐ声に、胸元で握られていた手に力がこもる。


「何、故…」
「まだなにか?
僕は急いでいるんだ。」


声から、少し苛立ちが見てとれた。
いつもならそこで、引き下がっていたはずだった。
けれども、何故だろう。
今まで溜まってきた何かが、言葉が、溢れてきた。
涙が頬を伝うのが分かる。


「貴方は…どうして、私を見てはくれないのですか?
愛してはくれないのですか?
私は貴方を、こんなにも愛しているのに…
それに、私との婚約を快諾してくれたのではなかったのですか?」
「何故、僕が貴女を?」


私の言葉に、冷たく嘲笑うかのように返された声音に思わず目を見開き、背を見つめる。
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ