犬も歩けば棒に当たる。…私は何に当たる?

□気付けば誰よりも好きでした
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「春海ちゃんは好きな人とかいる?」

「別に」

「お兄さんのことどう思う?」

「知らない」

「メアドと番号教えて貰っても良い?」

「駄目です」

「えぇー! なんで? 俺春海ちゃんとメールしたいんだけど!」

「私はしたくない」


もう! 春海ちゃんの意地悪! と口を尖らせて文句を言うフランシスというこの男は。

誑しなくせに顔はすごく良いからむかつくと思う。
ああもう他の女の子の所行けよ! って言っても私がお願いしてこうやってモデルやって貰ってるんだから言えない。

一昨日の私の馬鹿!!


それにしても昨日今日で3時間以上はずっと座り続けている彼がすごいと思う。
・・・・・・ほんっっっっっっの少しだけだけれども。


私は絵を描いてるからいいとして、人間動かないでただじっとしてるというのは辛い。
そこらへんはちゃんと理解して感謝しなければいけない。

その為にも早く描き上げてしまうのが彼にとっても私のとっても最善の行動だ。


あっという間に日が暮れて赤くなってきた教室の中で悶々と考えをめぐらせる。


・・・・・・フランシスがこうやって何時間も我慢して座ってるのは、私のわがまま、だよね・・・・・・?
本当はもっと他の用事があるかもしれないのに、自己主張が強いようで本当は優しいの、かも?


「・・・・・・メアド交換しない?」

「え、いいの? 春海ちゃんやだって言ってたでしょ?」

「いや、でも・・・・・・あ、う、したくないならしない!」

「いや! するする!」


一度そう考えたら頭がぐるぐるしてきて、気付けば口から言葉が出てきていた。
フランシスは嬉しそうに微笑みながら私の携帯と自分の携帯を合わせる。

送るから。とだけ言って自分の番号だけを押し付けて携帯をしまう。
貰ったりは間違えてもしない。ちゃんと言葉にするが私はフランシスの番号なんて欲しくないからだ。


その夜彼から律儀にもメールが来た。
内容は思ったよりも短くて。
お疲れ様。明日クッキー焼いていくから楽しみにしててね。
だけだった。

甘い言葉やハートの絵文字なんかは使われていない。使われてても困るけど。


つくづく変というか、誑しなのか優しいだけなのかわからなくなる奴だと思った。
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