犬も歩けば棒に当たる。…私は何に当たる?

□好きすぎてすき過ぎて
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「フラン、シス?」


どうしたの、と久々に話し掛けられる。
その事実に気付いてまたひとつぽたり。
それにつられて今までの不安がぽたり。

ぽたり、ぽたりと止まらない涙がシーツと春海の服に染みていく。


それは俺の不安みたいにどんどん広がってたちまち大きい水たまりになった。

後で洗わなきゃな、とどこか冷静な自分が言う。


「ごめん、春海ちゃん」

「なん、で謝るの。悪いの、私だよね。誤らないといけないの、私だよね」


必死に自分を制して涙を止めたのに、また上から新しい雫が落ちた。
乾き始めてたシーツに、再び濃い丸が一つ。
それがもう一つ、二つ。

絶句して俺は春海の顔をみた。


春海が泣いていた。

シンプルに言ってしまえばそれだけだけど、大きな目からまた涙を零して落としてシーツの俺の涙を上書きした。


「ごめんなさい、ごめ、んなさい」


そっと拭われた涙。
それらは春海に驚いた所為か、これ以上流れそうになかったけど。

普段泣かないだけに、なかなか長くは泣けないだけかも知れないが。
その時はそれよりも、驚いた方が大きかったのだ(その事にもまた、驚いた)。


春海が俺の為に泣いている。
その事が、不謹慎にも嬉しくて。
涙じゃなく笑顔がこぼれてしまった。


「俺、春海ちゃんに男として見て貰えてる?」


いつもの軽口のようにと心掛けてもやはり声だけが涙声で。
その事にもまた少し笑って、そんなに自分が春海に夢中なのだと可笑しかった。

それでも彼女は。
彼女はいつもの仏頂面を止め、眉尻は下がり不安げな顔をして俺に答えた。


その声はいつも聞く声からは想像も出来ないほど弱々しく、いつもの数倍(以上の数百倍)にも可愛らしく見えた。


「見てるよ。ずっと、フランシスが」


その、えと、と彼女もいつの間にか涙を止めて言い淀む。
言葉に詰まり、顔を真っ赤に染めて、泣き止んだと言えども目に沢山の涙を溜めて。

こんな表情を見るのも久しぶりで、見たくてしょうがなかったその顔に近付いた。


「ずっとフランシスが、大好きだよ」

「・・・・・・そっ、か」


聞きたくて聞きたくてしょうがない言葉をやっと聞けて。
本来ならここでまたにこりと笑うべきなんだろうけど、俺の目は本日大洪水を記録してるらしく。

また春海の涙の上から俺が雫を落とした。




きすぎてすきぎて
(言葉なんか見つからないんだ!)




》あとがき
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