急がば回れ。…回りたくない時もある。

□好きだ、好きだった。今も好きだ。
1ページ/6ページ



「椿君、明日暇?」


終業式が終わり、明日から冬休みになる今日。
僕は早々に片付けを済ませ帰ろうとしていた。
特に学校に残る理由もないので。


帰ったらなにをしよう、なんてよくある学生らしく考えながら。
地味に明日はクリスマスだから母親を手伝いでもしようかとか。

そんな物思いに耽っていた時、同じクラスの水瀬に呼び止められた。
一瞬にして硬直する体。
動揺を悟られないようにゆっくり振り向けば彼女はいた。


僕はクラスの人物なら声だけで誰かわかる。
それが水瀬なら尚更。


クラスの中心人物と言おうか、明るく屈託のない笑顔が特徴的な水瀬。
そんな彼女を目で追うようになったのは最近の事だ。
そんな彼女が僕に話しかけ、一体何のようかと首を傾げた。


「特に予定は無いが・・・・・・どうした?」

「あのさ、」


えっと、と彼女は言葉に詰まる。
珍しい、と初めて知った彼女の一面に少し心が弾む。
重傷なのは自分でもわかってる。


若干紅潮した頬に少し上がっている口角。
いつも凛としている目が少し細められて。
それと別にいつも通り魅力的な茶色がかった髪がふわりと揺れた。


「明日クラスの人何人か集まってクリスマスパーティーするんだけど」


椿君もどう? と聞かれ、いつもの様にとっさに時間が遅くなるようなら行けない、と言いそうになった口を塞ぐ。
せっかくのチャンスだ、と誰にもばれない心の中でガッツポーズ。

きっとこれは神様か、天使からの粋なプレゼントに違いない、なんて。
らしくない事百も承知で僕は珍しく。


「行かせて貰いたいな」


頷いた。

もしこの時頷いてなければきっと弱虫な僕は一生チャンスを逃し続けていた事となるだろう。
これがクリスマスの魔法と言う奴だ。なんて。




クリスマスぐらいは良いだろう。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ