急がば回れ。…回りたくない時もある。

□ワイン、始まりました。
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《side France》


それは、俺が帰ってきた時に見つけられた。
ノエルが俺に贈ってきたプレゼントにしては、随分まあ、なんかあれだと思った。

突飛すぎるだろ。


「・・・・・・誰?」

「んな事言われてもねぇ」


俺が帰るより先にいた女の子が、俺に対してそう言った。
いや、ここは俺の家で、そしてこの家の主で、むしろこっちのセリフなんだけど。

もちろん俺が家に呼んだわけではない。
招かれざる客って奴だ。


少し遡って。
俺が仕事から帰ってきて部屋に入ってきた時。
最悪だ・・・・・・と小さく呟いた声が聞こえたのだ。
え、と思い部屋を見回してみるとその子はいた。
頭を抱え込みしゃがんだまま微動だにせず。
一瞬幽霊かと思えばそうじゃない。ちゃんと足はあった。


その女の子の容姿を伝えると。

肩甲骨の辺りまで伸ばした髪。その毛先は茶色く、染められた名残なのか痛んでいるのか。
何にせよみっともないはずのその髪が似合っている。
俺に気付き振り向いたその顔はアジア系。


「うわ、え、うっわ」

「ちょっと、人の顔見てそれはナイでしょ」


そんな小さな彼女は眉を潜めて仕切りに人の顔を見てはうわうわ言って目を白黒させていた。
そんな事言う前に君、俺の部屋の真ん中でしゃがみこんでいるのは止めようよ。
こっちがびっくりする。


この時点で俺はまだ事態を飲み込めてないが、わかることは一つ。



この家の防犯、あるいは俺の防犯意識がしっかりしていなかった。ということか。



もし今度イギリスがいきなり来たりしたら、あっという間に侵入されただろう。
超危ない。


やはり自分の防犯意識の低さに呆れながら俺は意を決して少女に声をかける。
もしかしたら俺と同じ存在なのかもしれないし、この不安げな彼女を放っておけなかったのだ。


「お嬢ちゃん、どこから来たの?」

「知らんよ。あたしの家?」


表情をさっきのまま変えないでお嬢ちゃんは言った。
さっきの不安げな彼女はどこへ行ったんだと叫びたくなるほど、声にはなんの感情も表さず・・・・・・むしろ少し不機嫌ですらありそうな。
舐められてるの? 俺。
なんで不法侵入者に怒られそうなの俺。


しかしどんなに腹立たしくともここでマドマゼルに手を上げないのは俺のポリシーだ。


とりあえず前向きに迷子として考えよう。
そうだそれでいい。

なんて考えながら俺は開いているだろう窓の鍵を閉めようと向かう。
ちょっとした現実逃避だ。
幸いお嬢ちゃんはまた頭を垂れ立ち上がりそうな気配は無い。


うなだれて落ち込んでいるように見えた。


「あれ」


鍵を閉めようとした時初めて気付く。
・・・・・・気付くのが遅かったぐらいだ。
この季節窓が開いてて部屋が暖かいわけがない。一瞬で外と中の気温が同じになるのだから。

つまり。
窓は閉まっていた。


その窓には傷一つ付いてない。
俺が動いた所為でレースのカーテンがふわりと揺れた。


てことは、だ。

鍵は最初から閉まっていた。
窓が破壊されて無理やり侵入したわけじゃない。
まさかと思うがノエルが入れるようなえんとつは家には無い。
玄関の鍵は、さっき開けた。


彼女はどこから侵入した?


「お嬢ちゃんってどこから入ってきたの?」

「あたしが聞きたいそれ」


こっちだっていきなり移動して驚いてんだもん。
なんて真剣な顔して言うもんだから、俺も訳がわからなくなる。

彼女は不法侵入者じゃ無いんじゃないだろうか。


もっと、なにか他の、異質な事で俺の部屋にいるんじゃないだろうか。
事態はただの不法侵入では終わらないのではないだろうか。

頭がこんがらがってきて、不測の事態にどう対応すればいいかわからなくなる。
こんな事ってあるのだろうか。


「ねぇお嬢ちゃん」


いまどきそんなドラマどこでもやってないよ。
自分のロマンチックさにアホらしいと思いながらさらに情報を求めようとしたが。
彼女は少しむっとしたような声で俺に、求めたのとはまったく違う情報をくれた。


「お嬢ちゃんて止めてくれない? これでも結構良い年なんだから」

「え」


そして続けて言われた彼女の年齢に、俺は驚愕させられる事になる。
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