急がば回れ。…回りたくない時もある。
□部屋に響くピー音
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そろそろ寝ようか。
そんな時間だった。
電話の着信音。
この音楽はフランシスから来たときだけ携帯から流れる。
つまりはフランシスから連絡があったのだ。
今現在進行形で。
「もしもし」
『ボンジュール##NAME21##ちゃん! 俺だよ!』
「俺くん? ああ久しぶり。元気だった?」
『誰俺くんって!』
電話のスピーカーからはフランシスの声が聞こえた。
いつもの様にフランス語で挨拶して、私の対応に普通に困ったように返した彼。
わかってて言ってるんだから、今更名乗らなくていいのに。
なんていつもの様に思う私。
そこですぐに切ることも考えたが、さすがにそれはどうかとも思って。今日はそのまま会話を続ける事にした。
だってもうすぐクリスマスなんだから。
『春海ちゃんのフランシスだって。忘れちゃったの?』
「私独り身なんで」
オルヴォワール、と最近覚えたフランス語で別れを告げたが、それを掻き消さんばかりに相手が大声を出した。
ちょっとちょっと、と繰り返していてちょっと笑える。
しょうがないのでもう少し長く話す。
本当は無理やり切ろうかと思ってもいたが。
彼の必死さに免じて。
『明日のクリスマスのケーキ、なにが良い?』
「チョコ」
『りょーかい。じゃまた明日ね』
オルヴォワール、と今度は私が聞き取った。
それ以降聞こえる電子音。
電話が繋がっていないことを私に教えていた。
それにため息をつきながら携帯を充電器にセットした。
静かになった部屋で、やけに時計の秒針が存在感を出した。
またやってしまった。
私はどうしようもないやつだ。
いつもそう。
フランシスは私に尽くしてくれる。
私はそれが愛されてるからと知っているし感謝もしてる。
幸せだと思ってる。
でも私が行う事はすべて私の考えとあべこべで、何一つまともにフランシスに伝わらない。
そのうち嫌われる事は目に見えていた。
所謂私はツンデレなのだ。
・・・・・・そういうと可愛らしく聞こえる。
しかし実のところただの相手に気持ちを伝えられない迷惑行為だった。
本当に情けない。こんな私をなぜフランシスが相手してくれているのかがわからない。
今日だって。
相手の言う事はほとんど聞かないで、自分が言いたいことだけ言い切った。
相手は呆れてるだろう。
きっと今こうやって反省していようが、次また電話がくればまたさっきのように彼に冷たくあたるのだろう。
我ながらなんて面倒くさい人間なんだ。
もっとストレートに気持ちを伝えられれば良かったのに。
それならきっとフランシスは日頃から彼女ではない、つまり私以外の女の子たちといちゃいちゃしないんだろう。
自分でもわかってる。
私は馬鹿だ。
それでもどうしようもないんだ。