急がば回れ。…回りたくない時もある。

□ロイヤルミルクティー、始めました。
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《side milk》

とある朝。
天気は昨日と同じく快晴。
ただし気温は昨日より少しばかり暖かい。
いつもと同じ1日の、いつもと同じような始まりだったその時。


眠い。と言う声が違う。
ぐっと伸びた時の腕の長さが違う。
欠伸をした時の吸い込める息の量が違う。
頭にある髪の毛の色が違う。
目をこすった時の手の感触が違う。


寝ぼけたあたしが思ったのは。


なんか違う。



その、なんかすらわからなかったけれど。
違和感の原因さえわからなかったけれど。


とにかく、違ったのだ。


「体重い・・・・・・」


そう言う声だって違うもので。
とにかくあたしの体やら感覚やらはいつも通りの働きをしようとしてくれないのだ。

ぺたり、とフローリングを踏めば音がして。
その音も心なしか低い。

起き上がると同時に最近買ったばかりの羽毛布団が体からずり落ちて。
寒さに少し身震いした。
うう、さむ。でも昨日ほどじゃない。


そういえばあたし昨日ソファで寝ただっけか?
アーサーとじゃんけんしてベッドで寝る事になったような。

三回勝負で全部あたしが遅出しして勝ちを奪ったのだったような。


「床冷たい・・・・・・」


だいぶ声が低い。
いつのまにか風邪でもひいたのだろうか。
体温計はどこだったろうか。


ぺたり、ぺたりと低い足音を出しながら、まずはカーテンを開ける。
黄緑のカーテンの端を掴んで引いた。

部屋が一気に明るくなる。
思わず目を細めれば、睫毛に光が反射しているのが見えた。
おや? なんか睫毛がいつもよか長いような・・・・・・伸びたんだろうか。やったね。


そのことに少し嬉しくなりながら。
ごちゃごちゃとした棚を探れば、最後に使ったのがいつかわからない体温計を見つけた。
それ手に取ってふと見れば、感触どころかその手の形も違って。

目にくる風邪なんか知らない。
て言うかもうその時点で病気を疑うべきだ。


「熱ないみたいだ・・・・・・」


体には違和感ばかりだと言うのに。
あたしが本格的に病気を疑い始めた時だった。


「春海! 春海春海春海!」

「・・・・・・誰?」


やけに高い声。
この家にはあたし意外存在しないはずの女性の声。

どこかで聞いたことあるようなないような。


ただ、その顔は。
いままでほぼ毎日鏡の中限定で見ていたはずの顔とそっくりだったのだ。

名前で言うのなら、水瀬春海と呼ぶのだろう。




・・・・・・なら、あたしは?
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