急がば回れ。…回りたくない時もある。
□文化祭企画ーひまつぶし組
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カリカリと、白いチョークを右手に文字を書いていく。ノートほど綺麗には書けないが、大きな黒板に白い文字で。
『お化け屋敷』と書き上げた。
教室に沈黙が訪れる。さっきまでざわざわと無駄口叩いていたのに。
良いじゃないか、王道のお化け屋敷。
なのにどうしてこんなリアクションなの。
「執事喫茶はどう成ったの?」
ふわふわなパーマがかかった髪を高い位置で二つに縛った、我らがクラスのアイドル華凛ちゃんは足を組む。
ちなみに彼女がアイドルなのはあたしが勝手に決めたことだ。
まぁこれも文化祭実行委員長の権限ってやつである。
「他クラスがやることになったよ?」
「はぁ?」
眉間に皺を寄せた華凛ちゃん。それもそのはずで、彼女は執事喫茶をやりたがっていたのだ。
たぶん男装したいだけなのだろうけど。
残念だったな。男装はまた別に学校全体でやるから諦めてくれ。
心の中では平謝りしながら、あたしは黒板とクラスを見比べる。文化祭のテンションとは到底思えない。
なんなんだ、テンション上がってるのはあたしだけか。
「まぁ私は別にお化け屋敷でも構わないけど」
「俺も楽しいならこだわりは無いんですけど」
けどけど言う我がクラス。どうやら楽しいよりも不安の方が多いらしい。
それもその筈、うちのクラスには他に比べて楽しくやりたいひゃっほうと言うタイプが居ないのだから。
完成までたどり着くかは微妙な所である。
「和風? 洋風?」
「え?」
「ジャンルの噺よ。どっち?」
頬杖をつきながら華凛ちゃんは言う。彼女の机にはメモする為かルーズリーフまで用意されていて。
もしかしなくても、彼女は彼女なりに楽しんでいたのか。
華凛ちゃんはすでに和風の文字にぐりぐりと丸を付けていて、彼女の中では決定されてしまったようだった。
え、あれ? あたしまだ何も言ってないよ?
「驚かせると怖がらせるならどちらかしら?」
「俺は怖がらせる方がお化け屋敷っぽいと思うよ」
「何か使うものがあるなら俺が用意してやる」
あれ? あれ? 華凛ちゃんを口火に話がどんどん広がっていく。終いには綾乃ちゃんにチョークを奪われた。
え、なんで。なにこのおいて行かれた感。
「真琴は委員会でしょ?」
「まぁ、うん」
金髪を揺らして彼女は笑う。
絶対良くない事考えてるなと思った。嫌な感じ。
「じゃあ私たちに任せといてよ」
そうして、あたしは教室を追放された。