助団長編
□きっと、それが普通
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第一話「きっと、それが普通」
「待て!今日と言う今日はその髪黒くしてあげます!」
「うるせぇぇ!お前こそその下睫毛を切って来い!うざいんだよ!」
今日も平和な開盟学園。そこでは毎日のように壮絶な戦いが繰り広げられている。というか、毎日。
周りの生徒は彼らのことをほのぼのした目線を向けている。
この二人の男女の、“追いかけっこ”は、開盟学園名物の朝の恒例行事となっていた。
追いかける、いわば鬼役の全速力で相手を追いかけている男は全校生徒に言わずと知れた
開盟の生徒会副会長である、2年椿佐介。
追いかけられるほうで、体力が限界になり息も絶え絶えになっている女子生徒は、こちらも有名な、この追いかけっこによりさらに有名になった3年生の坂城綾乃である。
この二人の毎朝恒例となった追いかけっこは開盟学園の全員に近い数の人間が眺めている。
何しろ学校中を走り回るので、知らない人間のほうが珍しいぐらいで。
種目こそ子供達がやるようなほのぼのとした種目で、大声をあげながら走り回る二人は
本当にほほえましい。
追いかけっこの原因も、坂城綾乃の金色の髪に、少し下からなら下着が見えてしまいそうなほどの短いスカート丈という、なんとも学生らしい可愛い理由だった。
が、途中殴る蹴るは当たり前。途中どちらかが技をかけるのすら、何でもありルール無用のこの鬼ごっこは、可愛いとは言い難い。
それでも二人が何の怪我も無いのは、二人だからとのほかに言いようが無い。
そう、二人だからなのだ。
「今日は貴女のためにブロ○ネを買ってきてあげたんですよ!」
「白髪染めじゃねぇか!?買ったのか?お前が買ったのか!?」
椿が追う。綾乃が逃げる。椿が追う。綾乃が逃げる。椿が追う。綾乃が逃げる。
椿が追う。綾乃が逃げる。椿が追う。綾乃が逃げる。椿が追う。綾乃が逃げる。
この追いかけっこが終わるには、あの手この手を駆使した綾乃が1時限目の鐘が鳴るまで椿から逃げ切るか、
綾乃の体力が底を付いたところを椿が捕まえるかの2つが多いが、
めったに無い稀なケースで、綾乃の幼馴染であり、椿が唯一言う事を聞く人物、
安形惣司郎が椿をじきじきに止めると言うケースがあった。
「くたばれ下睫毛!」
綾乃が前へと向けていた走るための力をいきなり止めて、正反対の方向へと向ける。
椿に向かい走る綾乃は腕を伸ばし、脚を前に出す。
それはまさにラリアットの形だが、椿の長身と、綾乃の小柄な体型が合い混じって、綾乃の猛スピードの腕は、椿の首ではなく、腹に、すばらしい勢いで、ヒットした。
「あっ、なたと言う人は…」
「今日はあたしの勝ちだね。ザマァみろ副会長!来年会長になってから来るんだね」
「来年貴女は卒業じゃないですか!」
ふふん、と綾乃が優越感に浸り椿を見下ろしている間に、椿は何とか痛みから回復する。
そして、がっしりと綾乃の首根っこを掴んだ。