助団長編
□副会長の憂鬱
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開盟学園の生徒会。生徒の為に働く彼らは生徒からの信頼も厚い。頼りにされてると言っても過言ではない。
それは良くも悪くも、個性が豊かすぎる彼らだからこその活躍である。
そんな彼らは今日、挨拶期間中のため朝早くから校門に集合していた。
誰かは目を開けきらずに。誰かははおはようと言うだけで精一杯。
個人的な理由も関係なしに他の誰よりも早く登校し、校門の前で担当の教員と共に生徒一人ひとりに挨拶していくのだ。
面倒臭いと思っていようとも、彼らは誰もその言葉を発しない。その原因は。
しゃんと目を開き、はっきりした通る声で挨拶を述べる彼。椿佐助。
もちろん、生真面目な生徒会副会長は誰よりも積極的に行動していたのだ。
その場にいる誰もが驚き呆れる程に元気よく、高校生らしく健全に。
「おはよー」
突然の間延びした声。どっかの副会長とは正反対に、朝のだるさに身を任せた少女。
今年最高学年になった坂城綾乃。今日も彼女の髪は太陽と同じ色。
「惣司郎、精が出るね」
「よぉ。この場所欲しければやるよ」
「やだねめんどくさい」
いーとふざけて笑う彼女を椿はふと見る。目立つ金髪の彼女。
それをいつものように追いかけるべきか、否か。だがしかし今は挨拶運動中。
金髪を見つめる椿に気づかない綾乃は幼なじみと話しをしている。
いつもの事なのに、追いかけられるかもしれないとは微塵も思っていない。
油断し過ぎである。
椿が自身の腕時計を見るに、予鈴がなるまで後五分あるかないかの微妙な時間。
まわりは遅刻しまいとある程度急いでいる中、綾乃はそれをまったく気にせず、のらりくらりと談笑している。
今なら首根っこ捕まえるだけで捕獲できるだろう。
「でさー、昨日サーヤとメールしたんだけど――」
「たしかにメールしてたな」
そして朝だからなのか間の抜けたいつもより低い声が安形に掛けられる。
そんな彼も立ったまま寝てしまいそうな程ふらふらしながら、閉じかけた細い目で綾乃を見た。
この二人朝はとてつもなく弱い。弱いと言うか、寝ることが好きなだけの様な気もするが。
頼りにならない、とまではいかないが寝ぼけた会長と油断している天敵。庇う人も居ずに自身もふらふら。
いつもの様にやるなら今だが、果たしてそれは良いことなのか。
朝から頭をフル回転させて考える椿だが、道徳やら自分自身の眠気やらに邪魔され上手く答えが見つからない。
だがしかしこのままでは綾乃も行ってしまう。
「なに、副会長」
はっとした彼がしてしまった答えは、相手の足止めだった。
どうやって止めたかと言うと、綾乃の手を握って。
ぎゅうと相手の手を握るように。それこそ恋人さながらの早さで。
「あ、えと」
この手は何。そう言って眉を顰めた綾乃は手首を掴んだ椿の手を指さす。
どぎまぎして困惑した椿はすぐさま手を放した。何をしていたんだ自分!
「そ、そうだ、坂城先輩またそんな髪の色!」
「はいはい、そんなに私と一緒にお話ししたいんでしゅね」
「ば、バカにしないで下さい!」
取り繕った椿をはいはいと適当に流した綾乃はひらひら手を振り校門を潜ろうと足を進める。
すぐに椿もその前に進む。向かい合った二人。
半ば眼を糸のようにしている綾乃に眉間に力を入れた椿。
「なんなの副会長」
「スカートの丈を直して下さい」
綾乃が右に体をずらす。椿は左にずれる。
結果、二人は向かい合ったまま。
その横を遅刻間際な学生が通り過ぎていく。
「どけて」
「スカート丈直して下さい」
「やだ」
「ダメです」
右に左にフットワークを重ねる二人。彼らの争いは当然の様に平行線を辿るばかり。
ついに眉間に皺を寄せた綾乃は、とある手段にでたのである。