急がば回れ。…回りたくない時もある。
□hug me!!
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メリークリスマス!
力いっぱいに声を出して客人を出迎えた。ついでにクラッカーを鳴らせば、玄関には独特の火薬臭さが立ちこめた。
そしてそんな手厚い歓迎を受けた客人は、火薬の香りにやられたのか音にやられたのか眉尻を下げている。
先週買ったばかりのサンタ帽子を揺らしながら、客人がいつもの様にチャオと言うのを待つ。
「チャオ!」
涙目になりながら手を振ったフェリが、あまりにも可愛らしくて飛びついた。
少しもよろけず私を受け止めたフェリに、おおおと歓声を上げそうになる。
へたれへたれと言いながら、実は凄いんだぞ。
「春海、何これ?」
けふと煙を吸い込んだのかせき込む彼に、空になったクラッカーを見せた。
実を言うと今日フェリが来るのは先月から決まっていた。その所為で来る人来る人フェリと勘違いして、同じ持て成しを知らない人三人分してしまっている。
そりゃ玄関も火薬臭くなる。宅急便のお兄さんもびっくりする。
「びっくりした?」
「すんごくね」
でも春海だから許しちゃうと言うフェリは、もうなんていうかたまらなく愛らしかった。
将に保護するべき対象。世界が指定する保護動物。
いっそ私の家で保護したいとかそんな感じ。
フェリは料理を作ってくれるらしく、大きな袋を持ってきていた。
彼の細腕じゃ重たかろうと、慌ててそれを受け取る。ああと声が聞こえたがこれもフェリの為だ。
「俺、今日パスタ作るからさ」
「楽しみにしてる」
「うん、頑張るよ」
ふわりと笑ったフェリに見とれて思わず袋を落としそうになる。
うおおなんてかわいい顔するのあなたって子は……!
二人並んでキッチンへと向かう。突然フェリが途中で立ち止まった。
そこは物置の前。
あ、しまった。
「何これ?」
「……ん?」
「掃除はちゃんとしないとダメって俺言ったじゃない!」
確かに言われた。部屋でも物置でも汚くしたらルートに怒られるからダメだって。
でもでもでも、しょうがないんだって。あと扉が閉まらないんだって。
せめて布でも被せておけば良かった。物置からはみ出したなにかの一部を見ながらため息を吐く。
フェリは珍しくぽこぽこ怒りながら、それでもなんとか足を進めてくれた。
後ろからみたその細い腰に抱きつきたいと思ったけど、今は袋で手が塞がっていた。残念過ぎる。