急がば回れ。…回りたくない時もある。
□ゆるりと溶く
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夕暮れを誘う教室。窓ガラスの外はうっすらと赤い。
ああもうすぐ今日が終わるんだ。
黒板の片隅に書かれた日付の隣に、冬休みまでのカウントダウンが書かれていた。あの数字も一つ減るのだ。
窓際の適当に選んだ席に座って、いつもの彼が来るのを待っていた。
放課後午後五時の鐘がなれば、疲れた顔をしたその人がドアをあけるのだ。
「もう冬だね」
もうすぐ今年も終わる。
雪がうっすらつもったグラウンド。空は透き通って見えて、とても寒そうだと思った。
たった一人の教室で呟いたら、もっと一人になった気がした。
答えてくれる人が欲しいんだと、意識しなかった事に気付く。
もう二年は毎日の放課後をこうやって過ごしている。
部活に勤しむ彼を待つ、健気な彼女を演じていた。
本当は一緒に部活でもなんでも着いて行きたかったのに。ただ私と彼との一つの年の差が邪魔をする。
私は少し前まで受験勉強に努めなければいけなかったし、彼は部活の活動に尽力しなければいけなかった。
しかし、つい先週からお互いにそれらから解放されているのだ。
だったら、一緒に居られたら良かったのに。
素直にそうできないのは、私の所為だ。
着々と冬はやってくる。
深々と雪は積もる。
刻々と時間は経つ。
冬休みが明けても私は殆ど学校に来る必要がない。
それはつまり、彼に会う時間が減るのとイコールで繋がっている。
なのにどうして私は、彼と一緒の時間を避けるのか。
だって卒業したら、もう会えない。
私たちは普通のカップルだった。
特に学校で有名な仲良しカップルと言うわけでもなく、幼稚園時代からの幼なじみでもなく、ただの普通のカップル。
普通に出会い、普通に恋をし、普通に愛し合って、それから。
熱烈に愛し合っているわけではない私たちのすぐそこに迫っている物は、遠距離恋愛という高い障害。
乗り越えられるはずがないと思っていた。
午後五時の鐘が鳴る。
ああもうすぐだ。
暇つぶしに使っていたミュージックプレイヤーや文庫本を鞄にしまう。
五時だと言うのはわかっているのに、つい癖で携帯電話を開いた。
待ち受け画面の右上に、日付が表示されている。
ああ、明日はクリスマスじゃないか。
「プレゼントどうしよう」
そう呟くのと同時に、教室の扉が開いた。