急がば回れ。…回りたくない時もある。

□好きだ、好きだった。今も好きだ。
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「あれ、椿君だ」


集合場所はカラオケ。
そのカラオケまではそこそこ遠くて。正直行った事がない場所だった。
道を間違えてないか心配しながら歩いていれば、後ろから声がかかった。


振り向く前に水瀬だとわかって、それから振り向いた。
我ながらその判断の早さは異常だとも思う。


視界の端では渡ろうとしていた信号が赤に変わった。
しかしそれすら気にならないほどに僕は目の前の彼女に目を奪われる事になる。

振り向いた先には私服の姿で僕に手を振る水瀬がいた。

もこもことしたコートがよく似合う、なんて思いながら僕は水瀬が10メートル程後ろから追いつくのを待つ。


「水瀬か」

「私服だから一瞬誰かわからなかったけど、やっぱ椿君だ」

「そうか」


それは僕の台詞でもある。
声を聞いてすぐわかったが、逆に姿を見た瞬間に誰かわからなくなった。
私服の水瀬がいつもより大人っぽく見えて。

驚く程に心臓が激しく音をたてた。


思わず水瀬に見みとれていた時、彼女は手に持っていた小さな紙袋を僕に手渡した。
よくわからないまま受け取る僕。



しばらくの沈黙。


浮かんでは消えまた浮かぶ疑問。
なんて声を掛ければいいかわからない。

ええと、荷物持ちか?


「水瀬?」

「クリスマスプレゼント」

「・・・・・・これは他の誰かに上げるものじゃないのか?」

「違うよ」


第一そんな交換なんてしないから。と言った彼女。
確かにそんな事を聞いていなかった。


そこまでしばらく話していながらもなんでこんなスムーズに会話が進むかが自分でわからなかった。
今日は新たな発見ばかりだ。
自分の言動然り、彼女の私服然り。


「私が勝手に用意しただけ」

「そうなのか」


さっきの彼女の話通り、仮にそうだったとしても恥ずかしながら僕はなにも用意してなどいない。
そうじゃなくて本当に良かった。


小さな紙袋の中を見ればカップケーキが二つ。
丁寧にラッピングされたそれは買った物というよりも作った雰囲気がした。

見た目は店の物顔負けだが、どこか水瀬らしい雰囲気が漂っていたんだろう。
・・・・・・水瀬らしい雰囲気とはなんだろうか。


「今日最初に会った人にあげるつもりしてたんだ」

「何故だ?」

「なんとなく? クリスマスだからじゃない?」


苦笑いしながら答えた水瀬の行為の意味が理解できずに、ぽかんとしてしまう。
毒とかは入ってないからね。なんて冗談めかして言われた。


なんだろう、振り回されている気がする。
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