急がば回れ。…回りたくない時もある。
□すこしずれたへんごころ
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「水瀬、言っても良いか?」
「なんでもどうぞご主人様」
怪訝そうと言うかなんというか怪訝な顔をしてしまっているのは私なんだけど。
椿はまだほんのり赤い顔をしながら私を見つめていた。
その視線に思わず照れて目を逸らせば、名前を呼ばれてしまう。
なんだか押されてる気がする。
「プレゼンテーションはプレゼントを格好良く言ったわけじゃない。」
「あ、そうなんだ」
なんだそんな事か。
と熱い視線にドキドキした心臓を抑える。
一気に気が抜けた。
少しなにかを期待した自分がむなしい。
あんまりにも熱い視線だったものだから、てっきり愛の告白でもあるのかと思った。
しかし彼の言いたいことはこれだけじゃなかった。
まだ言っても良いか、という台詞は有効だったのだ。
「もう一度言い直してくれ」
「え、そうなんだ?」
「違う! もう少し前の」
「そんな奥手さんな椿に私をプレゼントだ?」
正しい形にして言わないと私が覚えられないとでも思われているのだろうか。
少し彼のやりたいことがわからない。
いつもの彼の照れ照れした雰囲気が見当たらない。
どこへ行った照れ屋な椿。
「貰ってもいいんだな?」
「へ、は、え」
いや、あの言葉はなんというかノリと言いますか、流れと言いますかつまりは冗談として受け取って欲しかったんだけどちょっと待って!!
椿さんは私から2メートル(今思えば酷い距離。遠距離恋愛だ)離れていた場所からじりじりと寄ってくる。
え、ちょっとどういう展開ですかこれ。
「先ほど水瀬は僕を押し倒してハグしてとか言っていたが」
こんな椿は見たこと無い。
いや、こんな迫力のある椿も勿論大好きさ。
だけどこれは。
身から出た錆だ。
「それらはすべて僕がさせて頂こう」
「ひゃ、え、」
「まずは押し倒すからだったな?」
ひゃああああ゛ああ!
――椿は真面目である。
生徒会長なんてやってるぐらい真面目である。
嘘は付かない。むしろ付けない。
私は不真面目と言うかなんというか、まぁアホである。
嘘と言うか、その場のノリで軽はずみな事を言ってしまう時がある。
すべては私が悪かった。
軽率とは私の事だった。
その日の午後。
私は予定していたかるたやツイスターゲームを中止せざるを得ないで、椿に押し倒しされハグされキスなんかもされて挙げ句のはてには羞恥プレイやらなんやら大人の事情で自主規制。
まぁつまりは世界一の幸せ者にされたと言っておこう。
少しずれた変心。
あらため、
かなりずれた恋心。
》あとがき