急がば回れ。…回りたくない時もある。

□ワイン、始まりました。
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お嬢ちゃん・・・・・・改めお姉さんだった彼女は水瀬春海と名乗った。
名前とその見た目と年齢の反比例さからして、春海さんは日本人だろう。

なんだってあそこの国の人は年齢に見た目があわないんだろうね。
まったく紛らわしいが素晴らしいと思うよ。


俺はとりあえず疑問と驚きを抑えずに、彼女を見つめ話しかけていた。
しかし、何度聞いても俺の知りたい事は彼女にもわからない。
のれんに腕押し、なんてこの事を言うのだろうか。


「なんで春海さんは俺の部屋にいるの?」

「わからない。でもあたしはここを選んで来た訳じゃない」

「ふーん」


彼女は突然の事態にしてはやけに冷静だった。
俺はこれでも結構困惑していたりするのだけど。


彼女の冷静が意味するのは嘘なのか、対処の仕方を知ってるか。
じっと観察し、一言一句少しの動きも見逃さないよう心掛ける。



しかし聞いていれば嘘でも本当でもどっちも有り得なくはない。
彼女の不安げな表情は本物だったし、しかし声に感情が見えなかったし。
今になって少しわかるようにはなったが。

まずここで有り得ないのは彼女が突然俺の家に居たという事だ。


俺は質問と見せかけた尋問を続ける。
結構用心深いのよ俺は。


「ここへはどうやって来たの?」

「もしかしたらって仮定はあるけど言えない。確信がない」

「日本から来たんだよね?」

「・・・・・・日本から来たは来たんだけど、君が知ってる日本じゃない」

「なに? 未来からでも来たの?」


未来、という言葉に彼女は反応した。
まさか。そんな事は有り得ないし。
信じるのはまず不可能だ。非現実的すぎるんだから。
それに言ってることがあやふや過ぎてそこも信用出来ない。


どうしようか。
俺はどっかの眉毛みたいにマドマゼルに暴力は振るえないしね。
そういえばあの眉毛最近見ないな・・・・・・快適だ。

俺は考えながらもそれを悟られないよう自然に会話を続けた。
まず彼女がずっとしゃがんだままなのもあんまりだと思うし、ソファーにでも座ってもらおう。


「とりあえずいつまでもしゃがんでないでソファーに座りなさいよ」

「あー、ども」


はぁ、とため息を付きながら春海さんは立ち上がった。
ここまでに随分経ってるが足がしびれたと言う事は無いらしい。
さすが日本人と言うべきか。


その時春海さんの膝から落ちるなにか。
この距離だと只の黒い固まりだが、春海さんが自分でも怪訝そうな顔をしてそれを拾い上げた。


・・・・・・その固まりは。




見覚えのよくある誰かさんのソムリエエプロンだった。


「え?」
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